呪い(3)
ルウェルが首をひねりながらあとをついてくる。演技のようには見えなかった。それがさらにラヒアックの後ろめたさを掻きたてる。
ルウェルが公国にいる間、シヴィロにある彼の家≠ノは、いずれも一通の便りもなかった。それは彼が自分を手放した者達を見限っているか恨んでいるからだと思っていたが、現実はもっと冷ややかだった。
ルウェルの中にシヴィロ王国の家族というものは存在しないのだ。
「お前を訪ねてきているのは、お前の母と養父母だ」
そんなルウェルに家族の情を求めようというのは、彼に対して残酷かも知れない。
返事はなかったが、肩越しに確認すると若者は反対側に首をひねっていた。
「お前はゼーリガー侯爵家の四男として生まれ、四つの時にギムガルテ家へ跡継ぎとして養子に出された。その後、大公家へ輿入れなさるハイデマリー様の小姓としてウゼロへ行ったのだ」
「そーだっけ。いや、そうだった気もする。――あれ? 隊長さんの家名はゼーリガーじゃなかった?」
「ゼーリガー家の今の当主は、私だ」
今度はあとをついてくる足音が消えた。いくらシヴィロ王国にいる血縁者のことを忘れているとはいっても、さすがに驚いているか。
そしてやはり、立ち止まったルウェルは目を見開いていた。
「あんた、もしかして俺の親父なの?」
「兄だ! 十二、三で子どもなどできてたまるか!」
「えー、そんだけしか離れてなかったんだ。てっきりもっと年上かと。すいません」
謝罪する気があるとは思えないルウェルの言いように腹が立ちかけたが、彼になんの感慨もないことに気づくとその怒りは引いていった。それどころか、血を分けた相手が目の前にいてもこの騎士の中で波立つ部分は一切ないという事実に、口の中が苦くなる。
「お前がこちらの家≠フことは何も覚えていないようだったから、今日まで声は掛けなかった。二十年以上繋がりがなかったのだから、我々は他人も同然だろう」
「あーはい。正直、隊長さんに兄貴だって言われてもどうしようもないなって、今思ってたところです」
「お前がそう思えるのは、殿下とともにお前を引き取ってくれたテナ家の心遣いが素晴らしかったからだろうな」
王太子はルウェルが王城へ現れて以来、ずっとこの騎士をそばに置いている。二人の気安いやりとりは公の場でこそ許されないが、そうでない時は、ルウェルが王太子を弟か友人のように扱うのをラヒアックも咎めないようになった。
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