天槍のユニカ



レセプション(10)

「リータ、髪を解いて」
 ほかの二人は息を呑んで驚いているが、当人はぽかんと口を開けたまま、何を言われたか分からない様子だ。
「フラレイとエリュゼは金髪だから無理だわ。あなたが私になりすましてストールを取ってきて」
「ゆ、ユニカ様……お許しください」
「ドンジョンへ連れてきた責任をとれと言っているんじゃないのよ。私の持ちものを残していくわけにはいかないの、分かるでしょう?」
「でも、」
 わたしが怒られます、とでも言いたげな顔である。当たり前だ。ここはそもそも女がいていい場所ではない。
「大丈夫よ、チーゼル卿も私に気がついたわ。弁明ならあとでいくらでもしてあげる。それに公子さまとお話し出来るチャンスじゃない」
 その言葉で戸惑っていたリータの目つきが明らかに変わった。見初められればお傍にあげて貰えるかも知れない。彼女は一瞬でそこまで考えたらしい。
「お願いよ、リータ」
 そしてユニカに頭を下げられれば、従わないはずがなかった。
 リータはいそいそと髪を解き、ポケットの中から出した櫛で結び癖を整える。彼女の髪では長さも黒さもユニカに及ばないが、公子もユニカの姿を遠目に見ただけだ。誤魔化せるだろう。
 また誤魔化せなくても、ストールさえ回収してしまえば、あとは外務卿はじめ廷臣たちが知らぬ存ぜぬを通してくれる。そのうちにシヴィロ王国の世継ぎになるあの公子もユニカのことを知り、見て見ぬ振りをするようになるだろう。
「ここを検めるなんて言い出されても困るから、私たちは先に戻るわ。ストールを頼むわね」
 同僚の嫉妬の目にも気づかず、リータは石造りの階段を駆け降りていった。
 遅れてユニカの部屋へ戻ってきた彼女がむくれているところを見ると、拝謁はうまくいかなかったようだが。
 お気に入りの寝椅子(カウチ)に座り、ストールを膝の上にのせてユニカは息をついた。安堵が半分、疲労が半分である。
「公子さまが、藍色のドレスによくお似合いでしたとおっしゃっていました」

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