天槍のユニカ



光と影(21)

「真剣に聞くけど、ディルクはユニカが将来、王太子妃やら王妃やらになって、本当にやっていけると思ってるわけ?」
 ずいぶん早いペースで五杯目の杯を傾けているレオノーレはさすがに顔を赤らめていた。その割にさっきから口をついて出ているのはとりとめもない愚痴ばかりで、ディルクに甘えにきたわけを話しているようには見えない。
 一方のディルクはというと、まだ理性の手綱を緩めている場合ではなかったのでちびちびと酒を舐めながら、書類に目を通しては署名を書き付けていく。
 レオノーレの問いは、ユニカが王太子妃代理としてウゼロ公国へ赴くことが決まってからこちら、何人から投げかけられたか分からないほど聞き飽きたものだった。
 どう答えたところで相手は納得しない問題である。訊いてくる方はそもそもユニカという存在に不安を覚えているか、快く思っていないかだ。そしてユニカが王族の伴侶としてやっていけるのか、現時点で示せる確固とした答えもない。
 ゆえに、ディルクの回答は一貫していた。
「能力を買われて王家に嫁いだ女性なんて、俺が知る限り一人もいない。伯母上のことが記憶に新しいからみんなユニカと比べているようだが、伯母上が陛下に嫁がれたのはエルツェ家の姫君だったから、それだけだ。前のお妃のリリー・マルテ様もメヴィア家の姫君だったからだろう。ユニカはちゃんと条件を満たしている」
「そうは言ってもさ、王族の女にはいろいろと求められるわけじゃない。特に人脈づくりが。ユニカはまだぜんぜん人見知りだし、お喋りも上手とは言えないし、ユニカのことが気に入らない人間も大勢いるし」
「同性の友人がろくにいないお前が言うのか? それに、伯母上にも敵はいた。そして同じだけ味方がいた。それだけのことだ」
「味方がいたところで、公然と批判されることに免疫のないユニカが堪えられるかしらねぇー」
 不穏なことを言い、とうとう長椅子に寝そべり始めたレオノーレをじろりと睨む。
 彼女が指摘したことは、ディルクにとっても懸念だった。
 ラビニエの茶会のような度の過ぎた嫌がらせはいくらでも処罰してやれる。ただ、そこに届かない、罪とはいえない悪意がちくちくとユニカを刺し続ける事態はいくらでも想像できた。
 そういう時にエルツェ公爵家の人々、メヴィア家の人間、そこで寝そべっているレオノーレやクリスタなどが盾になってくれるはずではあるが、それでも心が無傷というわけにはいかないと、ディルクも思う。

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