光と影(20)
しばらくして、エリーアスが再び薬研を空にした。かと思ったら、彼は次の薬草を掴む前にユニカの頭をぽんぽんと叩いてきた。
「そんな顔すんな。今度からはちゃんと手紙の返事、書いてやるから」
子どもの頃はわしわしと頭を撫でてきたその手だが、今はきれいに整えて結われたユニカの髪を気遣ってこんなふうに触れてくる。それはユニカが変わったからで、エリーアスは合わせてくれているだけ。
ぶっきらぼうな言い種で、ふれあい方も少し変わってしまったが、それでも頭にのっかったエリーアスの手の感触は優しくてあたたかい。
「本当? 前は返事よりエリーが会いに来てくれるほうが早かったんだから」
「そっちのが早い時はまたそうするよ」
ユニカが少し前に進み、エリーアスも前に踏み出したなら、小さな変化が寂しく感じるのは仕方のないことかもしれなかった。
でもきっと、会えばエリーアスはこうして家族の距離でいてくれる。
それならば、ユニカも安心してディルクのところへ帰ることができそうだった。
* * *
今日はとことん仕事がはかどらない日だった。
と言うにはまだ時間があったものの、日暮れまでに邪魔者が立ち去るとも思えない。
ニキアスを帰してからすぐ、ディルクの元へ入れ替わるようにレオノーレが押しかけてきた。
彼女は王に呼び出されたあとだったらしい。用件が済んだその足で執務室に乗り込んできたそうだ。何やら不機嫌でそのまま執務室に居座ろうとした。
居座られては仕事にならないし、追い返そうとしても聞かないし。レオノーレがわがままを言うのは珍しくないが、いつにも増して頑なな態度にはさすがに違和感を覚えた。
十日間も宮を出禁にした腹いせかとも思ったが、これは妹なりの「話を聞いて欲しい」という合図かもしれない。滅多に発せられることのないサインを無視するのは後ろめたく、ディルクは仕方なくレオノーレを連れて宮へ戻った。
ディルクも相変わらず職務に精励する気になれなかったのでちょうどいい……とは言えないが、急ぎ決裁が必要なものだけを宮へ持ってきて、陽も明るいうちからやけ酒を嗜んでいる公女に付き合っていた。
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