天槍のユニカ



光と影(19)

「様をつけてくれていいんだぜ」とのたまいながら手を動かすエリーアスを見上げ、ユニカはしばし呆然となった。
「ひどい! どうして知らせてくれなかったの? お祝いしようと思ってたのに」
「お前もなんか忙しそうだったし、俺も身の回りの始末でばたついてたし」
「アマリア以外に赴任するの?」
「そういうわけじゃねーけど。導師の役割はパウル様の世話係とはわけが違うからな」
 僧侶の位階の仕組みはよく知らないが、導師はかなり地位が高いのだと、昔誰かから聞いたことがある。教えてくれたのはマクダだったか、キルルだったか。記憶は定かではないが、教え導く人≠ニいう位なだけあって、教徒だけでなく僧侶達を指導、統括する役目があったし、ブレイ村のような農村にあっては領主の裁判にも口を出しできるほどの権限があったそうだ。
 エリーアスがどこかへ赴任するわけではないなら、アマリアでいわゆる部下≠持ち何かを束ねる役割に就いたということだろうか。ほっとする一方、もしかするとまた年に数回しか会えなくなるのかもしれないと思うと心細くなる。
 それに、エリーアスが急に導師になると言い出したのが不思議だった。彼は育ての親に等しいパウル大導主に長いこと仕えていた。それは単純にパウルがエリーアスを信頼していたからであり、エリーアスがパウルを慕っていたからだと思っていた。
 その関係を解消してまで、どうして。
「エリー、どうして急に導師様になろうって思ったの? 勉強は嫌いだって言ってたのに。覚えてない祝詞もたくさんあるって」
「アヒムみたいにどこかの教会堂を預かるってわけじゃなかったからな。そのあたりは結構ごまかせた」
 さりげなく理由の回答を避けられた。そう気づいたユニカは心臓がぎゅっと縮こまるのを感じた。
 秘密なのだ。エリーアスはユニカに対して嘘をつかないけれど、教会の様々な情報を握っている立場であるから、こんなふうに話をはぐらかすことがあった。そういう時、追求しないのが暗黙の了解である、と王妃が言っていた。
 導師になったことも報告してくれなかったことを思うと、ユニカがこの件に触れるのをエリーアスは望んでいないのかもしれない。
 きっと違うと分かっていても、まるで避けられているような気分になる。
 それ以上問いかけることも、別の話題を考えることもできずにユニカは黙った。薬草が砕けてすり潰される音だけが二人の間に響く。

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