天槍のユニカ



光と影(18)

 ヘルミーネも有効だと語っていたし、二人の公爵夫人がそれぞれに見せてくれた「にっこり」にはユニカも鳥肌が立った。二人とも王家に準じる大貴族の妻ではあるが、田舎の出身、公国の出身と揶揄されることも多々あったのだろう。
 あの二人でさえそのような辛酸を嘗めたのなら、ユニカなどどうなるか分からない。「にっこり」できるようになっておかねばならないし、上手くディルクに庇って貰わなくてはどうにもならない場面もあるだろう。
 ただ、それでもだ。
 必要だから存在する公的な役割。王太子と共に公国の歓待を受ける者として、少しくらいはディルクの役に立ちたい。
 ディルクの宮へ入る前、ヘルミーネに言われた。殿下の役に立てなくても、せめて邪魔になってはいけないと。
 ユニカもそのつもりで過ごしてきたが、それではだめだった。ユニカを疎む人間はいるし、理由だっていくらでも湧いてくる。そういう者を避けて過ごすには、宮廷はあまりに狭くいくら気を付けていても足をすくわれる。
 身にしみてそれが分かったのも、むしろ隠れて過ごすことを辞める決心を後押ししてくれた。前へ出るなら、もうディルクに相応しいと認められる以外の道はないのだ。
 そう思うときに脳裡に浮かぶのはやはり王の顔。
 ディルクの元へ転がり込んでからこちら、姿は見かけても一度も言葉を交わしていないあの人は、今何を考えているのだろう。ユニカを王太子妃代理にすることを認めるだなんて。
 ディルクも王の様子はあまり話してくれないし、ユニカもなにをどう問えばよいのか分からないでいる。
 ただ、ウゼロへ発つ前には、一度話をしなければと思う。
「そうだわエリー。導師様になる試験は、やっぱり不合格だったの?」
 ユニカは公国行きの前に片付けたい心配事をもう一つ思い出し、新しい薬瓶を開けるのと一緒にさりげなくエリーアスに尋ねてみた。
「やっぱりってなんだ、やっぱりって」
「だって、ぜんぜん結果を知らせてくれないから、合格できなかったんじゃないかと思って……」
「なに言ってんだよ、受かったに決まってるだろ。俺はもう導師様≠ネの。最近パウル様の手紙を持っていくのはフォルカだっただろ?」
 つまり、教会の声たる伝師の役目は弟子に譲ったと言いたいらしい。

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