天槍のユニカ



光と影(16)

「殿下にもナタリエ様にも叱られたからよく分かったわ。『私なら大丈夫』だって考えてはいけないって。エリュゼや公女殿下にも迷惑をかけたし、次は、ちゃんと助けを求めるようにする」
「次があってたまるかって話ではあるけどな」
 ユニカの言葉に一定の満足は得たらしい。エリーアスは少しだけ表情を緩ませて再び薬研を動かし始めた。
「次があったら今度こそ王太子を殴る。あいつが痛い目に遭ったり俺が牢にぶち込まれたりするのが嫌だったらしっかり頼むぜ」
「それはやめて」
「ユニカ次第」
「……」
 エリーアスならやりかねない、と思うとそれ以上言葉が出なかった。彼が心配してくれているのは間違いないし、自分自身がやるべきことをやるだけなのだから、心配しないで公国行きの準備としっかりしようと思い直す。
「代理≠チつっても、お前も引き受けたからには代理≠フ先まで目指すつもりなのか」
「正直、まだ、ちゃんと決めていないの」
 許されている間だけ、ディルクのそばにいられればいい。
 ディルクのそばにいられるようになりたい。
 後者へ天秤が傾いたとはいえ、まだ揺れていて、境界も曖昧な自覚はあった。
 王太子が私的な感情で妃を選んではいけないのではないか、それで自分が選ばれてはいけないのではないか。
 エルツェ公爵やメヴィア公爵という、ディルクにとっても味方となる大貴族がこの話に関わっていると分かっていても、まだ後ろめたさは残っている。
 代理≠フ先にあるのは、ほんものの王族としての責務、やがては王の隣でまつりごとを行うという立場。そこまで背負える自信も覚悟もない。
 そして、そう思っていることはディルクに伝えてあった。
 すると彼はまるでユニカの手札の弱さを知って喜ぶような不敵な笑みを浮かべ、「その程度の不安でよかった」と言った。「じゃあ例えば、ジゼラにそういう覚悟があると思か?」と。

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