天槍のユニカ



光と影(15)

 まだおおやけに発表されていないであろう、しかも、エリーアスに迅速に伝わるはずもないことを聞かれたので、ユニカはぽかんとしながら彼を見つめた。
「ついさっき、女子爵から聞いた。お前の侍医だから一緒に公国に行かなきゃならないかもしれない、だってさ」
 しかしエリーアスがこちらを見もせずに次の薬草を掴むので、ユニカは気がついた。エリーの口数が少ないのはそのせいか、と。
「ごめんなさい。私、殿下のところへは行かないって言っていたのに」
「謝ることじゃないだろ。だいたい、俺はお前が選んだ相手なら誰でも反対しないって言った」
「じゃあ、どうして怒ってるの?」
「別に怒ってない」
 とてもそうは見えなかったが、エリーアスが会話を拒んでいるように思えてユニカは口をつぐむ。
 歓迎してくれる人もいれば、自身の都合のために認めてくれる人もいて、同じだけユニカが王太子妃代理をやることを容認しない人もいるだろう、とはメヴィア公爵夫人に言われたこと。だが、ほかならぬエリーアスがこう≠ネのは悲しかった。勝手な期待だと分かっていてもだ。
 黙って薬研に新しく薬草を入れる。本当は久しぶりに会うエリーアスに聞いて貰いたいことも聞きたいこともあるのに。
 薬草が砕けていく乾いた音にひたすら耳を傾けることしばし。
 二杯目の薬草を瓶に移すと、エリーアスは長い長い溜め息をついた。
「お前、公国に行くとか王太子妃の代理とか、そういう話の前にだな、もっと用心して周りと付き合えよ」
「用心?」
「とぼけても無駄だぞ。お前が毒入りの茶を飲んで死にかけたのは知ってる」
「ど、どうして」
「女子爵が呼ばれた時にたまたま一緒にいた」
「エリー、よく施療院にいるのね」
「人の飲む茶に毒なんぞ入れるやつが悪い。それは間違いないけどな。お前、自分の身を守ろうっていう意識はちゃんとあるのか。それがないまま王太子の隣に座るなんて無謀だからな」
 ユニカがはぐらかそうとしたのも真っ向から遮るエリーアスは、確かに怒ってはいないようだった。しかし答えずにこの話を終わらせてくれるつもりがないことも伝わってくる。

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