天槍のユニカ



光と影(14)

「エリー、忙しいって言ってたけど、もし本当にこんなことをしてる場合じゃないのなら……」
「一時間くらいならなんとかなる。座れよ」
 乾いた薬草を机の上に広げ、エリーアスの隣の椅子に座る。そうして二人は薬草を掴み、黙ってそれを砕き始めた。
 黙々と作業に集中するつもりだったのだが、こういう時は手と一緒に口を動かすことが多いエリーアスが何もしゃべらないのが気になって、落ち着かない。
「この薬草、メヴィア家からのものなのね」
 会話の糸口を探して視線をさまよわせていると、目の前の木箱に捺された焼き印が目に入った。『献上品』と書かれたその下に大麦の紋章がある。
 ユニカが素直に驚いてこぼすと、エリーアスは一杯目の薬研の中身をさらさらと瓶に移しながら答えた。
「王家に献上されたのが施療院に回ってきてるだけだけどな。メヴィア家はアマリアのすぐ外にでかい薬草園を持ってるんだ。大学院の研究用にいろいろ作ってるって話だけど、大量に育つからには使わにゃだし、大量に使うといったら医官か施療院。王家に渡しておけば勝手に按分してくれるってことだろ。ヘルツォーク女子爵がめちゃくちゃぶんどってきてるっていうふうにも聞くけど」
 いるものをあるところから貰って何が悪い、とは、確かにナタリエが言いそうなことだ。それに、城の中にも薬草園がある。よほど特別な薬が必要な場合でない限り、その薬草園で城勤めの人間や王族の手当に要する分はまかなえると聞いた。
 それでもメヴィア公爵が王家に薬草や新しい葡萄を献じるのは、それが彼の仕事や大学院の学問の成果報告にあたるからだろう。
「メヴィア公爵は、本当にお仕事熱心な方よね」
 正直なところ、クヴェン王子の死後、未だに王に呼び出されるか自分が顔を出したくなった時以外は王城へ登らないエルツェ公爵より、ちょっと冷たいが淡々と自分の役割をこなしているメヴィア公爵の方に好感が持てた。何より、メヴィア公爵は養父の悪口を言わない。
「王太子妃候補のお姫さんがいたあっちの公爵家とも、上手く話がついたそうじゃないか。で、お前が王太子と一緒にウゼロに行くって?」
「――どうして知っているの?」

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