光と影(3)
エルツェ公爵夫人ヘルミーネは、メヴィア公爵夫人アリアナと、その末の姫ジゼラも一緒に連れていた。
「ごきげんよう、公爵夫人」
「素晴らしいお部屋をお貸しいただいて、ありがとうございます」
直前まで思い思いの席でお菓子を摘まんだりできたレースの切れ端を検分し合ったりしていたクリスタ達は、一斉に立ち上がって最上級のお辞儀をして見せた。
「熱中なさっているところ申し訳ないのだけれど、仕立屋が到着しましたよ」
ヘルミーネは一見してにこやかにそう言ったのだが、目が合ったユニカはその冷ややかな眼差しにぎくりとした。
横目で置き時計を確かめてみると、マクダを呼んだ約束の午後二時を過ぎている。時間管理がなっていない、とヘルミーネは思っていることだろう。
とはいえ、教室をお開きにできなかったのだから仕方がない。そう切り替えたのはユニカではなくヘルミーネだった。
「今日は、公国でのお茶会で姫が着るドレスの生地を選ぶのです。よろしければ皆さんも姫に似合うものを見繕ってやってくださいまし。若い方の意見も参考にさせていただけるとありがたいわ」
アリアナを呼んだのは、彼女にも生地選びを手伝って貰うためだった。(ジゼラはきっと母にせがんでついてきたのだろう)シヴィロ王国の流行を持っていくのはもちろん、ウゼロ公国の流行に沿ったドレスも必要だからである。
ちなみに、式典や正餐会で着る格式高い衣裳は新参の御用商であるマクダに任せることを許してもらえなかったので、古くから王族の衣装を手がけている仕立屋達が作ることになる。
すべて合わせて十六着は新しいドレスを作らねばならないと聞いた時は、少し気が遠くなった。生地や柄などはヘルミーネとアリアナが適当に決めてくれればいいと思っていたので、クリスタ達が加わってさっさと必要な生地が決まってしまえば御の字だ。
そういうわけでマクダが待つ別室へ移動することになり、今日もユニカは、寂しがっているであろう王太子殿下のことを思い出している暇がない。
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