天槍のユニカ


光と影(2)

 クリスタが皆におかわりのお茶を注ぎながら口を挟んでくる。するとヘレンは唇を尖らせた。
「わたくしはずっと一緒にいられる方がいいですわ。それに、クリスタさんがおっしゃっても説得力がなくってよ。目と鼻の先に婚約者がいるのですものね」
「わたくしだって大霊祭の時に彼と会ったのが最後ですわ。家が近くても近衛騎士はそうそうお城から降りてこられないのです。でも、会いたいと思っている時間もそれはそれで幸せではないですか」
 二人とも、だいぶレース編みに飽きたと見える。ラモナだけは黙々と作業するのも嫌いではないようで、今日のところは一番上手にレースを作り続けていた。
 ディルクに王太子妃代理の役目を引き受けると言った翌々日から、ユニカは城を降りてエルツェ家の屋敷に滞在していた。里帰りという表現のほうが正しいかもしれない。ともかく、ディルクの宮で暮らしだしてから初めての数日間にわたる留守だ。
 大げさな理由があるからではなく、単に忙しいからだった。
 王太子妃代理としてウゼロ公国へ行くには、ヘルミーネの派遣する教師達から教わる基礎知識だけでは不十分だ。向こうで対面する貴婦人方との生きた人間関係が生じる。大公妃を中心とした公国の女性達の事情を詳しく知る人物から情報を仕入れなくてはならない。
 幸い、その役目はメヴィア公爵夫人が引き受けてくれた。彼女は今でも公国で暮らす姉妹や、彼女と同じようにシヴィロ王国へ嫁いできた公国の女性達と連絡を取り合い、大公の宮廷の事情にはかなり明るいという。
 そちらの勉強に加えて、身体も元気になったので施療院にも顔を出したかった。クリスタ達にもお礼をしたかったし、公国へ持っていく衣裳もそろえなくてはいけないと言われた。
 そうすると、王城の最上階層にある王太子の宮からメヴィア家やエルツェ家の屋敷、そして施療院を行き来したり、その合間を縫ってドレスづくりを依頼するマクダと予定を合わせて尋ねてきてもらったり、クリスタ達を招く時間と場所を用意するのはものすごく不便だった。
 それで、少なくとも衣裳の打ち合わせが済むまでの四、五日ほど、エルツェ家で寝泊まりすることにしたのだ。
「皆さん、教室ははかどっていて?」
 娘達がきゃっきゃとはしゃぎながらレースを編んだり編まなかったりしている離れへここの主人が現れたのは、それからさらに小一時間が経った頃。

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