選びとる(3)
「そうですか……お茶に入れられたのが猛毒だと分かった時には、もしものことがあったら償いきれないと思っていましたが……」
ユニカが目を覚ましたのは昨日。ようやく第一報を耳にしたエリュゼは空気が抜けてしぼむように項垂れていった。
「明日までの謹慎が終わったら、また登城しユニカ様のお世話をするように、とのことです」
クリスティアンはディルクから預かってきた書簡をエリュゼの視界に入るように差し出した。王太子の紋章をちらりと見て、エリュゼは浮かない顔のままそれを受け取る。
「またユニカ様のお世話をさせていただきたいのはやまやまですが、合わせる顔がありませんわ。――以前にも、わたくしの不注意でユニカ様がありもしない罪を着せられかけたことがあるのです。二度とそんなことがないようにおそばで見守ることをお許しいただいだのに……殿下のおっしゃる通りです。わたくしがいたところで……」
ディルクはエリュゼになんと言って登城を禁じたのだろう。レオノーレとは反対に分かりやすく落ち込んでいる婚約者を見て、クリスティアンは夕べ気になったことを思い出した。
クリスティアンがエリュゼのもとを訪れたのは、ディルクから遠回しに頼まれたからだった。
曰く、ウゼロ公国にいるクリスティアンの母からディルクのところへ手紙が届いていたらしい。内容はともかく、クリスティアン宛の書類も公国から届いているだろうから確認しに行ったほうがいい、ついでにエリュゼにこれを届けてくれ――と。
手紙と一緒にユニカが目を覚ましたことと、明後日から登城せよ、というエリュゼへの伝言を預かった。
クリスティアンは今、身一つでシヴィロ王国に滞在しているので、王城の中にある兵舎が家だった。与えられたのはルウェルとの相部屋だし、テナ家の爵位継承にまつわるもろもろの書簡を保管しておける広さも金庫もない。ゆえに、母には重要な書類はプラネルト伯爵家へ送ってくれと便りを出してあったのだ。
それを利用してわざわざエリュゼのところへクリスティアンを向かわせるのだから、だいぶ容赦のない追い払い方をしたのだろうと察せられる。必要な処置だったし、ディルクの立場上、臣下であるエリュゼに謝罪することはできないわけだから、登城せよと声を掛けるのが最大限の気遣いなのだ。
「ユニカ様もあなたのことを心配していらっしゃいました。元のようにお顔を見せて差し上げれば安心なさると思います」
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