苦いお砂糖(14)
そう言われたような気がした。
「そういえば、ユニカ様は施療院のお仕事を手伝っておいでだと伺いました。どんなことをなさっているのですか?」
ラビニエが、ユニカの皿にティアナの一口ケーキを載せながら尋ねてくる。
この茶会の女王の表情は無邪気だったが、彼女の、いや、彼女達の標的が自分に移り変わったことを知って、ユニカは背筋を強張らせた。
ティアナのように上手く言い返せる自信はない……しかし、みんなが知っていることなら隠す必要もないし、オーラフ院長や、施療院に集う人々はユニカを歓迎してくれている。
「貴族の姫君らしくない」かも知れないけれど、施療院の仕事を手伝っているのは何も恥ずかしくないことだ。
だったら怖くない、ティアナのように堂々と答えてみたらいい。ユニカはそう意を決した。
「はじめは、施療院で必要なリネンや患者達の肌着を縫っていました。この頃は施療院の中でのお手伝いもしています。料理の下ごしらえだとか」
ティアナがお菓子作りで厨房に出入りしているのを誇れるなら、ユニカだって患者達の食事の支度を手伝っていることを誇ってもよいだろう。
ラビニエ達が眉を顰めるのも先の会話で分かっていたことなので、ユニカはうつむかないよう腹に力を込めて彼女達を見据えた。
「料理の下ごしらえとは、どういうことをなさるのですか?」
「野菜を洗ったり皮を剥いたり、そういう簡単なことです」
「まぁ……それはすごい=Bでも、何ごとも経験ですかしら?」
ラビニエはそう言ったが、ペトラ達はあからさまに口元を歪めて見せてから隠した。
すっと胸が冷たくなる。同時にばかばかしいと思った。この人達は、結局のところユニカを貶める話の種を探しているだけ。
ただ、ユニカは自分がもっと狼狽えるかと思っていたが、勇気を出して関わり始めた人々の存在は、思いがけないほどユニカを支えてくれている。
ラビニエ達の遊びに付き合うことはない、なんとかやり過ごそう。そのためには……沈黙は金、だろうか。
いざ相手にしてみるとラビニエを恐いとは思わなかったが、それでも、ユニカの表情は強張っていたらしい。クリスタがすっと割り込んできてくれた。
「確か、王妃様もそのように施療院の仕事を手伝っていらっしゃったのですよね。母から聞いたことがあります。施療院との関わりはエルツェ家の伝統ですわ」
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