天槍のユニカ



公国騎士の参上(9)

 男たちはそれをよく見ようと、眉根を寄せ目を細めながら青年に詰め寄った。
「ええええ!?」
 そして、一斉に悲鳴に近い叫び声を上げる。
「あ、あんた、それ……」
「仕官なら、もうしてるから。じゃ、ごちそうさま」
 子供のように屈託のない笑顔で手を振ると、青年は軽快に通りを駆けていく。
「なぁ、あれ」
「ああ……」
 不死鳥は王族に仕える騎士に与えられる紋章。
 そして、翼の形にはめ込まれた赤い尖晶石(スピネル)は、公国の騎士であることを示す。

     * * *

 城壁を揺るがすような歓声に包まれ、ディルクはゆっくりと手を振り続けていた。
 うるさくていい加減に頭が痛い。耳がおかしくなりそうだ。
 これだけ民衆と離れていればどんなに引き攣った微笑みを浮かべていてもばれないだろうが、明るい表情を絶やすわけにもいかず。
 その点、王は羨ましい。彼は終始無表情だったにも関わらず、彼が広場へお出ましになった瞬間、民衆の歓声は爆発するように盛り上がった。
 王は無愛想だが、仕事好きで政(まつりごと)も善い。毎月最後の安息日には全国の貧民街へ食べものや衣類を配るよう手配している情のある君主でもある。
 そんな彼は民から絶大な信頼と敬愛を集めていて、軽く手を掲げて見せただけで民衆の歓呼は頂点を極めた。
『国王陛下万歳!』
『王太子殿下万歳!』
 止まない大喝采に背を向けて、ディルクも城内へ戻るため輿に乗り込んだ。
「お疲れ様でございます」
 満面の笑みで、カミルが即座に膝掛けを差し出してきた。ディルクはありがたくそれを受け取り、冷え切った手を革の手套の上から擦り合わせる。
「お寒いですか?」
「ああ。雪が降らなくてよかった。晴れていなければとても笑ってなどいられなかったよ」

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