天槍のユニカ



公国騎士の参上(8)

「こっちの人間はちゃんと受け入れてくれたみたいだなぁ」
「何だって?」
「いいのいいの、独り言。俺そろそろ行こうと思うんだけどさ、どっかこの辺で馬を貸してくれるとこってねーかな? 飛ばして来たから、乗ってたやつ潰しちゃったんだよね」
 少ない荷物と剣を担ぎ、青年は落ち着きを見せ始めた通りを見遣った。
 行列はこのあと城門前の広場へ戻り、王太子からの挨拶で今日のお祭り騒ぎは締めくくられると聞いている。
「リンデンの宿屋なら借馬もやってるぞ」
「お、助かるー。場所教えてよ」
「本気でお城に押しかけるつもりかい、兄ちゃん」
「そうだけど」
 青年は都の観光地図を貰い目的地を確かめると、真顔で問うてきた男の一人に笑い返した。
 周りの男たちはまだ冗談だと思って肩を揺すり笑っていたが、青年が鼻歌を歌いながらごまかす様子もなく店を出て行こうとするので、さすがに少しだけ不安になる。
「おい、やめておけよ。今日はどれだけ警備兵が出てると思ってんだ。ばかな真似したらあっと言う間に牢屋行きだぞ。仕官したいならちゃんと伝手(つて)を使え。ほら、アドラー、お前のはとこの姉貴の息子だっけ?」
「はとこの嫁の兄貴だよ」
「が、城の衛兵なんだろ? 紹介してやれよ」
「いや、そりゃ、出来るもんならしてやりたいけど……」
「あはは、気ぃ遣ってくれなくてもいいって」
 振り返った青年は、そう言うと何やら自分の荷物をごそごそあさり始めた。目的のものはなかなか出てこないらしく、一人で首を傾げ、上着やズボンのポケットも探っている。
 そうしてようやく見つけた何かを、誇らしげに掲げて男たちに見せる。
「じゃーん。伝手ならあるし。ってか、なくさないようにつけとこ」
 青年が取り出したのは、大振りな金のブローチだった。細かい細工に赤い宝石もはめ込まれた、見るからに上質な宝飾品。
 青年はそれを長旅でくたびれた外套の襟元につける。なんとも不釣り合いだ。

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