天槍のユニカ



公国騎士の参上(7)

 しかしこの日に限ってはそうでもない。新しい世継ぎを歓迎する宴のために、王都周辺の街や村からやって来た者もいる。彼らの目的はもっぱら商売か求職だが、青年の様子はそれとは違った。
 少なくとも王都周辺の人間ではないようだった。雪をしのぐための分厚い外套はくたびれきっていて、どこか遠くからの旅人らしい。長靴(ちょうか)は雪道を歩くためのものではなく乗馬用。しかし馬は連れていない。
「そうそう、ディルクを見に来たんだけどさぁ、どこも人がすごくてぜんぜん見えねーの。女の子たちは頑張るね。俺はもう諦めた」
 男達が青年の格好を不思議に思ったのは一瞬である。酔っているのもあったが、青年の陽気で気さくな笑顔に疑問など吹き飛ばされたのだ。
「おいおい、殿下のお名前を気安く呼ぶなよ」
「立ち回りって、何する気だ? まさかお城へ押しかけて無理矢理目通りを願うとか!」
「そんな感じ」
 青年がにかっと笑うと、出来上がった男達はどっと爆笑に包まれる。楽しそうで何より、と思いながら、青年はお裾分けされた鶏の焼きものに遠慮なくかぶりついた。
「お城で雇ってもらいたいんだろう! 俺の剣を買ってくれってな!」
 男の一人が、青年の腰に吊されていた長剣に気がつき言った。
「そりゃあいい。殿下に頼めばきっと近衛に入れるぞ! 噂じゃ殿下は、近衛隊長に就任されるらしい」
「へぇ、そうなんだ?」
 青年は長剣の柄を撫で、隣にどっかと腰掛けた男に向かって首を傾げる。
「ばか、そんな大事な情報が漏れるかよ」
「おお、ばかとはなんだ、ばかとは。俺のはとこの嫁の兄貴はなぁ、外郭の警護を担当する城兵で、そいつから聞いたんだよ」
「そんな下っ端の兵士が、殿下がどんなお役目に就くか知ってるわけないだろう」
「でもあり得る話だよなぁ! 何せ金鉱バルタスを取り戻したお方だから!」
「ありゃ妹姫の手柄だろ」
「いいや違うぞ、当時のバルタス方面軍の総督は殿下だったし、掠奪された金や鉱夫達の財産以上の賠償金をトルイユからもぎ取ったのも殿下で――」
 男達と一緒になってけらけら笑い、青年はしばらくその食堂に居座った。ディルクについての様々な噂を聞いて楽しみ、話が及んだディルクの母、シヴィロ国王の妹ハイデマリーについての噂も目を細めながら聞いた。

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