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公国騎士の参上(5)
そうでもしないと胸に溜まった不愉快さが消えていかない。
「でも、ずっとお城に住んでいらっしゃるし、陛下のお気に入りだし、愛妾くらいならあり得るかも」
「ふん」
あってたまるものか。父が爵位を賜り、貴族の娘になったリータでさえ相手にされないのに。
体調を崩す直前、リータは温室でディルクに逢った。抱きしめられて、キスをされて――でもあれは、リータが見た甘い夢らしい。
確かに記憶は曖昧だが、ディルクの体温だとか、唇の感触だとかははっきりしている。
妄想だとばかにされるのが嫌で誰にも言ってはいないが、おかげで、ディルクがユニカに興味を持ったのではないかと思うと余計に腹が立った。
「フラレイは、それならそれでいいかもって言っていたの。王太子殿下のご側室の侍女≠ナも充分箔がつくからって。リータはどう思う?」
「だから、あり得ないって言ってるでしょう。フラレイは殿下に名前を覚えていただけたからっていい気になっているのよ」
自分が村娘以下だなんて、リータは絶対に認めたくなかった。たとえどんな特別な力を持っている娘であろうとだ。
同僚の反応に複雑な顔をしたテリエナは、お茶を啜ってどこかしょんぼりしながら窓の外を見た。
今朝までたれ込めていた灰色の雲が切れ、陽が射してきている。
「城下は賑やかなんだろうなぁ」
彼女らはいつも通りの退屈な時間を過ごしていたが、今日の王都アマリアはお祭り騒ぎのはずだ。
* * *
ユニカが刺繍に飽いて本を広げ始めた頃、彼女は少しも知らないことだったが、城下は凄まじい喧騒に包まれていた。集まった人々の熱気は薔薇色煉瓦の街並みに積もった雪を溶かしてしまいそうである。
過日、ウゼロ大公家からシヴィロ国王の猶子に迎えられ、王太子となったディルクをお披露目する行列が都の大通りを縦横に練り歩いていたのだ。
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