天槍のユニカ



公国騎士の参上(4)

(本当に贈ってくるなんて)
 しばらく何の音沙汰もなかったから、王太子はもうユニカに用がないのだろうと思っていた。ユニカ自身も二度と王太子に関わるものかと思っていたし。
 だが、忘れかけた頃にこんなに素直なお礼をされてはこちらも身構える力が抜けてしまう。
 完全に時期を外している気はしたが、事件の後処理で忙しかったのかも知れない。しかしその間にも本を手配してくれていたから、こうしてユニカの許に届いた。やっぱりまめだな。
 そんなことを考える内に口許が弛んでいたことに気づき、ユニカは眉間に皺を寄せた。紙の束にしか見えない本を取り出しつつ気を引き締める。
 本は、ありがたくいただいておくことにしよう。しかしお礼の返事を書くつもりはない。
 今の今まで意識しなかったが、ディルクがシヴィロ王家の継嗣になったということは、この先もずっと王城に住み続けるのだ。住む場所は離れているものの、王以外にも同居人が出来たわけだ。
 お互いにただの同居人でいるためには、距離を置く必要がある。


 恐い顔で本を手に取るユニカの様子を、リータとテリエナは控えの間から扉を薄く開いて覗いていた。
「ユニカ様が笑ってた……あれ、殿下からのお手紙? 何が書いてあったのかな。親しくなられたのかしら」
「この間のお礼でしょ。公子様を助けたんだもの。ちょっと世辞のきいた手紙くらいあるわよ」
「フラレイが言ってたんだけどね、もしユニカ様がディルク様のお妃になるようなことがあったら――」
 音を立てないように扉を閉めると、二人はテーブルについて自分たちのために用意してあったお茶をカップに注いだ。エリュゼのカップも温めてあったのだが、またどこへやら出て行ってしまって彼女はいない。
「あるわけないでしょう。あんなただの村娘」
 リータはそう吐き捨てて、クッキーを一枚丸ごと口に放り込む。ちょっと詰め込みすぎたかもと思いながらも、むきになってがりがりとそれを噛み砕いた。

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