天槍のユニカ



みんなのおもわく(9)

「殿方として扱われているということじゃない?」
「それ、キヨラも言ってた。でも違うと思う。僕のこと坊ちゃん≠ト言うし」
「乳母の彼女にとって、アルフはいつまでも坊ちゃん≠ネだけなんだと思うけど」
「兄上のことはカイ様≠チて呼ぶのに?」
 そう吐きすて、彼はがりがりと音を立ててサブレを食べ始める。エリュゼが注意しても知らん顔だ。その態度はいかにも子どもだった。
 大人扱いも子ども扱いもされなくて、むしゃくしゃする年齢なのだろう――そういえば、ラビニエもアルフレートと同い年だ。立派な淑女といえる貴族の娘達をはべらせて、彼女達にかしずかれることで何かを満たしたい。だからお茶会を披くのだろうか。
 今日は忘れずにヘルミーネやその友人達に、せめてくだんの難しい姫君を不快にさせず、そこそこ気に入られる手土産に何を準備したらいいか相談せねばならない。
 そう考えていたところへ、再び扉が叩かれた。今度の客人はクリスタだった。彼女はエルツェ家の女中が去って行くと、しとやかな微笑みを引っ込めて興奮気味に駆け寄ってきた。
「ユニカ様、メヴィア公爵夫人がいらしていますわ……!」
 エリュゼがブルースターを模した髪飾りを挿してくれているのを鏡の中で見守りつつ、ユニカはきょとんとした。
「はい。いらっしゃっているようですね」
 今日の招待客の名簿は、あらかじめヘルミーネに見せられていたので知っている。名簿には客人達の出身や趣味なども書かれており、覚えてきて話の種にするように、という継母からの指令付きだった。
 その中には以前会ったことがある婦人もいるが、メヴィア公爵夫人なる女性とは初対面だ。(新年の宴で顔を合わせたかも知れないが、例によってユニカは覚えていない)ただ、クリスタのように驚く理由はなかった。公爵の妻同士、ヘルミーネと交流がある人なのだろうと思うだけである。
 ユニカのそんな反応が不服だったらしく、クリスタは自分で椅子を引っ張ってきて隣に座り、ユニカに詰め寄った。
 近くで見ると、彼女はちゃんと染め物のドレスを着ているのが分かった。若草色のガウンには、裾の方から腰にかけて、金色にも見えるくすんだ黄色で蔦模様が描かれている。胸元やスカートは優しい象牙色。そこには青や赤紫、黄色など、カラフルな小花の柄が散らしてあり、落ち着いた雰囲気の中にも夏の花々の鮮やかな色彩を感じられた。
 これもマクダが手がけた衣裳だろうか。素敵だな、と思ったが、ユニカがそれを伝える隙もなくクリスタが重々しく言った。

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