天槍のユニカ



みんなのおもわく(7)

 それでも、明日の分の通行証を持ってきてくれたエリュゼには「この先のことはユニカ様からきちんとお願いなさい」と言われてしまったから、頑張るしかない。
「それで、その、明日の通行証は用意して貰ったのだけど、これから毎日作業をしないとドレスが間に合わないらしいの。だから、ここへ通える通行証をマクダさんに渡してあげて欲しい、です……」
 ユニカはどうにか言い終える。ディルクはしばらく黙っていたが、唐突に抱きかかえたユニカの首筋に顔を埋めて笑い出した。
「何かおかしい……?」
 彼の髪や吐息にくすぐられながら尋ねると、ディルクは笑いを堪えながら顔を上げる。
「いや、通行証だけでいいのかと思って。そんなに遠慮しなくてもいい。御用商として認めてあげよう。そうすればユニカが用がある時にいつでも呼べるだろう?」
「でも、それは……」
 王家御用達の商人として認められれば、王族のお召し一つで城門をくぐってこられる。しかし、その特権を得るには商品の質の高い基準を満たさねばならないし、古くから特権を持っている商人達の利権が絡むので難しい、と今日マクダから聞いたばかりだった。
 加えて、当代の国王陛下は特に服の流行に興味を示さないし、亡くなった王妃様も新しくいらっしゃった王太子殿下も、城に出入りする既存の商人達で満足しているご様子。取り入る隙がないからお城への道は遠かったんだ、ともマクダは言っていた。
「ユニカが大人しく衣裳を作らせるなんて、今まで聞いたことがなかったからな。これからも相談しやすい相手がいた方がいいだろう。クリスタが連れてきた仕立屋ならきっと質も問題ない」
 マクダのあの言葉は、王太子殿下に取り入ることが出来ればなァ、という意味でもあったのかも知れない。ユニカとしても助かるが、彼女はこれを聞いたら帽子の羽根飾りと一緒に飛び上がって喜ぶだろう。
「大丈夫なの?」
「大丈夫≠ニは?」
 ディルクが寵姫のひいきの商人に特権を与えた、ということを批難されたりはしないのだろうか。そう聞いてみたい気がしたが、微笑んでいる彼が答えてくれるように思えなかった。
「ユニカの甘え方が足りないから、俺が本当に君をそばに迎えたのか、みんなそろそろ怪しんでるくらいだよ」
 案の定、はぐらかすような答えが返ってきて、あとには熱のこもった口づけが続く。みんなが疑問に思うくらいがいいんだけどな、という言葉は外へ出ることを許されない。

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