天槍のユニカ



みんなのおもわく(6)

 二人ともそれぞれに食事は済んでいたので、ディルクは早々にカミルと侍女達をさがらせた。そうして長椅子に座り、ユニカを膝に乗せてすり寄ってくる。
 エリュゼが怒っているとしたら、身分がどうの、マクダの口の利き方がどうのという問題のせいだと思ったが。嫉妬とはどういうことだろう? 尋ねたかったけれど、塞がれた唇がなかなか自由にならなかったので聞きそびれる。
 やっとお互いの顔を見詰められる距離まで離れると、ユニカはおずおずと言った。
「クリスタさんのこと……ありがとう。本当は、衣裳を用意しなきゃいけないことをディルクに相談しろって、レオにも言われていたんだけど」
「役に立ててよかった。先に手を回すのもどうかとは思ったんだが、茶会に呼ばれるといろいろ準備があると聞いたことがあるから、あんまりのんびりしてもいられないなと。やる気のある仕立屋も見つかってよかったな」
 ユニカは頬を緩めながら、もっとおねだりなさったらよろしいのに、と言うクリスタの笑みを思い出した。
 ディルクは頼もしい友人を紹介してくれた。もしかしたら、彼はエリュゼから仕立屋の素性を詳しく聞いているのかも知れないが、この先はユニカが自ら言わねばならないだろう。
 そう考えて、居住まいを正すためにディルクの膝から降りようとしたが、彼は放してくれなかった。今日は大霊祭で、大切な人と過ごす日だからだそうだ。隣に座るのでもいい気がしたが、せめてものお礼にとディルクの望みに従うことにする。
 シヴィロ王国の夏の夜は短い。こうやっていられる時間だって、どれくらいあるか分からない。
「ブレイ村にいた頃の知り合いだったの。村の女性達に針仕事を持ってきてくれていて、いつもうちに泊まっていたから、私もお世話になっていた人で……。疫病の時は――早めに西の方へ避難していて、無事だったのですって」
 きゅ、っと胸が痛んだのは、あの夏≠フ話をしたからだろうか。それとも、こんなふうに過ごせる時間が夏の夜の夢みたいなものだと思ったからだろうか。
 どちらにせよ、針が刺さったようなかすかな痛みをユニカの表情から読み取ったディルクは、慰めるように髪を撫でてくれる。
「懐かしい人に会えたんだな」
 うん、と頷きつつ、そのままうつむく。今、ディルクはユニカの頼みを何でも聞いてくれるつもりだと分かっていても、少しだけ躊躇した。何かをねだるなんてことは、養父やエリーアスにもあまりしたことがなかったから。

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