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公国騎士の参上(3)
「え?」
「だって、スミレの花は王太子殿下のご紋章ですよ」
「そうなの……」
知らなかった。
「まぁ、ご存じありませんでしたの?」
大げさに驚いたのはリータだ。若干棘のある言い方である。いつものことだが、ユニカはむっとしながらリータを見つめ返した。
怯えてうつむいたのはなぜかテリエナで、リータはぷいとそっぽを向き、扇と靴を置いて踵を返す。テリエナは泣きそうになりながらお茶を注ぎ終わると、そそくさとユニカから離れていった。
逃げ込むように控えの間へ入っていく二人のひそひそ話す声が聞こえてくる。
「リータ、ユニカ様と二人きりにしないでったら」
「大げさね、ちょっと睨まれたくらいで怯えすぎよ」
「だって……」
そういう話は扉を閉めてからにしろ。そうは思うものの、よくあることなので気分は悪いが咎めるのも面倒だ。
ユニカはささくれ立つ心を自分で宥めながら、手に持っていたスミレのカードを開いてみた。
『先日はありがとう。約束の本を、まずは三冊。今一番評判がいいものを侍女に教えてもらって用意した。面白かったら、私にも貸して欲しい』
短いメッセージを読み、ユニカは堪えきれずに笑いをもらした。それから慌てて顔をあげ、侍女達がみんな別室に引っ込んでいることを確かめほっとする。
(「貸して」だなんて、変なの)
シヴィロ王国の世継ぎともあろうお方が、本の回し読みをご所望だなんて。それもこんな安物の本を。
もう一度カードの表を見て、スミレの下に書かれた文字を指でなぞる。
(お名前、そういえば聞いていなかったわ。向こうは私の名前を知っていたけれど……)
ディルクというのか。王と同じ金糸のような髪と、青緑の瞳の彼は。
思い起こしてみれば彼はいつも『殿下』と呼ばれていて、本人も自分を知らない人間は城内にいないつもりだったのだろう、ユニカの前でも名乗らなかった。
メッセージはつい先ほど書いたものらしく、最後の文字の端がユニカの指に触れてにじんでしまった。自分で書いたのだろうか。いや、秘書官が書いた可能性も大いにあるが、まめだなと思う。
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