天槍のユニカ



再会(12)

「それは、その、衣裳の件も、本当は相談しようと思っていたのですが……」
「殿下はきっと、ユニカ様のためにもっといろいろなさりたいのを我慢しておいでですよ」
 それを聞いたユニカが耳まで赤くなる。クリスタは「差し出口でしたわね」と詫びつつ、ただあたたかい微笑みを崩さない。
 ディルクは、いったいどんな手紙をクリスタに送ったのだろう。彼女がこんなに微笑ましく思える内容には違いないだろうから恥ずかしい――上に、恐らくユニカの悩みをほとんど見透かしていたディルクにこの数日見守られていたのだと思うと、それも恥ずかしくてたまらなかった。
「さて、その衣裳のことですが。よい機会ですし、一から仕立ててしまいましょう」
「でも、それには時間が……」
「大丈夫ですわ。はじめはわたくしがまだ袖を通していないドレスをユニカ様の寸法に直してはどうかと思って、なじみの仕立屋に相談したのです。そうしたら、ユニカ様のためなら精鋭のお針子を十人でも二十人でも集めて、十日で一着作ってみせると頼もしいことを言ってくれて、」
 「十日で!?」と声をそろえて目を剥いたユニカとエリュゼに対して、クリスタは胸を張った。
「流行の型にはめて作るだけなら、鋏と針の数さえそろえばどうとでもなると申しております。ユニカ様らしさ≠ヘ、布や細かいところの飾りでなんとかしましょう。大丈夫、信頼のおける仕立屋ですわ」
 それはすごいなと思う一方、そんなに頑張る必要があるだろうかという疑問も少し。
 力強いクリスタの台詞に頷かなかったために、その迷いを悟られた。これまでふわふわと笑っていた王太子の元侍女は、眼差しをきっと鋭くして身を乗り出してきた。
「時間もありません。今日は早速採寸を、と思ってその仕立屋を連れて参りました。別室で待たせているのですが、ご挨拶させていただけますでしょうか」
 そんな急に、とぼやくエリュゼの声は聞こえなかったようなクリスタ。
 この時初めて、彼女にもラビニエなんぞに負けてたまるかという、レオノーレのような闘争心が垣間見えた。多分、友人として頼みごとをしてきた王太子と、彼から託されたユニカの面子を潰してなるものかという、公女殿下に比べればいくぶん穏やかで健全な闘争心だろうが。
 そんなクリスタの熱意と想い人の心遣いに思いをいたし、ユニカは少し気圧されながら頷く。

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