天槍のユニカ



再会(9)

「それで、お支度はどのくらいお済みですか?」
「支度? ドレスのことでしょうか」
 間の抜けた声で問い返すユニカにも、クリスタは動じなかった。そんなことだろうと予想していたのかは分からないか、彼女は微笑を崩さないまま静かにカップを置いた。
「もちろんお衣裳のこともあります。あとは、主催者のラビニエ様に何か手土産をお持ちしないといけません」
 手土産。コルネリアはそんなことを一言も言っていなかった。ユニカが茶会に出たことはないと聞いても、そうした初歩的なマナーはひとつも教える気にならなかったらしい。
「手土産というのは、どういうものですか? お酒や食べものですか?」
「そうですわね。お菓子や軽食を持っていらっしゃる方がほとんどで、そういう料理もテーブルに並ぶのです」
 クリスタが居住まいを正したのに加え、最後の一言でユニカはことの重要性を察した。
「つまり、手土産もなんらかの評価を受けるのですね……」
 これまでに出たことのある、例えば新年の祝宴で、貴族達から王家に献ぜられた酒や珍味があれこれと話題にされていたのを思い出す。若い娘が集まる場でも同じということか。
「美味しければ気にしないという方もたくさんいらっしゃいますわ。食べたいお菓子や料理が運ばれたテーブルに移動して、またいろいろな方と話が広がるのも楽しいものです。ですが、今回ユニカ様は初めてラビニエ様のご招待をお受けになるでしょう。しかも、殿下からのお手紙にはコルネリア様が招待状を届けにいらっしゃったとありました。コルネリア様はラビニエ様が特にお気に入りのお姉様≠ナす。そんな方に招待状を届けさせたのですから、並々ならぬご関心をお持ちのご様子。きっと、ユニカ様の手土産はラビニエ様が召し上がります」
 だから心して用意した方がいい、とクリスタは言いたいのだろう。
「では、ラビニエ様の好みに合うものを持っていかないと……ということですね」
 逆に考えれば、舌でラビニエの機嫌を取ることに成功すればあとが楽になるのかも知れない、というのは楽観的すぎるだろうか。
「そうです。でも、それが少し難しいですわ。ラビニエ様がお好きなお菓子はコルネリア様をはじめとした一番親しい方々がそろえてしまいますし、同じものを持っていくと、どうしても比較の的になって火種になることが……」

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