天槍のユニカ



雲の向こう(6)

 * * *
 
 グレディ大教会堂が抱える王都アマリアへの門をくぐると、正午を前にして賑わう通りを真っ直ぐたどった先、丘の上にある王城の城壁が見えた。
 心苦しくなるのを堪え、ユニカはまず教会堂の西側にある施療院へ向かう。門前の広場もいつも通り賑やかで、院長のオーラフ導師もいつも通り忙しそうだったが、彼は帰京したユニカを歓迎してくれた。加えて、今日は施療院で患者達の治療に当たっていたヘルツォーク女子爵も一緒に。
「本当に縫ってきてくださるとは。お土産までいただいてしまって、何やら申し訳ない気がいたしますね」
 積まれた肌着と大鍋一杯分のジャムの瓶を見て、オーラフは目を丸くしながらも喜んでいる。
「村の女性達にも手伝って貰ったので間に合いました。そのジャムも、みんなで作って」
「懐かしいこと。王妃様がゼートレーネへ行ったあとには必ずジャムをいただけたのです。いやはや、私は運がいい。今日施療院へ来ていて正解だった」
「ナタリエ様がこのところよく顔を見せてくださっていたのは、ユニカ様のお帰りが目当てでしたか」
 施療院に、と言ってユニカが差し出したジャムの山から養父の恩師はさっと二瓶をくすねとり、さも自分が貰ったもののようにしてほくほくと笑っていた。院長は束の間白い目で彼女を見ていたが、患者達への加療において功績大なる女医に文句は言えないらしい。
「それにしても、ゼートレーネはやはりユニカ様のことも虜にしてしまったのですね」
 さっそくジャムの味見をしていたナタリエから不意にそんなことを言われ、ユニカはきょとんとした。
「はい。よいところでした」
「ふふ。そうでしょうとも。お顔にそう書いてある」
 女子爵が笑うと、隣でオーラフも一緒にくすくすと笑った。二人がなぜ笑うのか分からなかったものの、ユニカはパウルのところから迎えの僧侶がやって来たので怪訝に思うまま席を立つことになった。

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