天槍のユニカ



雲の向こう(1)

第11話 雲の向こう

 ユニカが村を去る日は、一行を見送るように朝から初夏の陽射しがさんさんと降り注いでいた。
 教会堂には大変な数の村人が集まり別れを惜しんでくれた。中でも、滞在中ほとんどつきっきりで世話をしてくれた村長夫人のアンネと、数年ぶりに館へ主を迎えることが出来た管理人の老夫妻の悲しみようはいっそう深かった。
 三人が娘か孫でも嫁に出すような寂しがりようで泣いてばかりいるので、またも出発の時刻が遅れてカイをいらいらさせてしまったが、最後には山ほどの料理を詰め込んだお弁当を持たされてユニカ達が乗った馬車は村をあとにした。
 このあとも領主館では秋まで管理人の夫妻が住み込み、村人達も畑や庭、家畜の世話をしに通うそうだ。そして皆で冬支度を終えたら、管理人夫妻は村の家へ戻り、家畜も冬の間は村人に預けられて、来年の春まで館は空になるらしい。
「冬もここに住めたらいいのに」
 湖と森の向こうに離れゆく領主館の屋根を見つけ、ユニカは思わず独り言ちる。
「あの館は夏の館ですから。窓が大きくて風がよく通りましたでしょう? このあたりの冬はアマリアよりうんと冷えます。夏の館ではお寒いですよ」
「そうなの……」
 ユニカにそんなつもりはなかったが、同じ馬車に乗っていたエリュゼとレオノーレにはひどく残念そうに聞こえた。
「よっぽどゼートレーネが気に入ったのね。だったら来年また来ましょうよ。あたしもここが気に入ったわ。今度はあとひと月遅くね。肝心の木苺が食べられなかったもの」
 レオノーレは、ユニカが領地を離れがたく思っているのではなく王都に帰りたくないのだと想像出来ていたが、それは言わないでおいた。ますますユニカが憂鬱になってはいけない。
 そういう配慮が功を奏し、ユニカはほんのりと笑いながら膝の上にのせているバスケットを撫でる。中には食べきれるか分からないほどのパンとおかずが入っていた。ちなみに、同じだけの食べものが詰まったバスケットはエリュゼとレオノーレの膝の上、カイとアルフレートと侍女達の膝にも乗っている。
 温かい食事をみんなで食べたことを、自分は驚くほど楽しんでいたな、とユニカは思い起こした。そうした思い出の中のところどころにディルクの顔があり、あたたかいと同時に苦い気分になる。

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