願いごと(11)
弟のことが原因なら、さしで尋ねれば何か話してくれる気になるかな、とも思ったのでレオノーレはわざわざ戻ってきたのだが、まさかユニカに先を越されるとは。
「しばらく入れないよなー。まぁ、ドロボーもいなさそうな田舎だから盗まれるってこともないだろうし、明日の朝でもいいんだけど。問題は事情を話したらクリスが部屋に入れてくれるかだよ。ってか、ちょっと酔ってたから鍵掛けて寝ちまってるかも」
「廊下で寝れば」
「ひどっ。こんな寒いのに。入れて貰えなかったらレオの部屋行っていい? どうせ広いじゃん?」
「……」
ディルクも、エイルリヒも。
それぞれ夢中になるものがあると途端にレオノーレのことを忘れてしまう。お互いのことは、憎みながらでも常に見つめ合っているのに。
同じ呪いをかけられて生まれたきょうだいでも、レオノーレが彼らの一番≠ノ収まることはなかった。これまでも、これからもだ。
三人≠ェいいと思っているのはレオノーレだけ。
そんな自分は本当は、大切な二人の幸せを手放しに喜べない人間だった。ディルクがまた愛情を注げる相手を見つけられてよかったと思うし、エイルリヒが顔も見たことのない婚約者にのぼせているのも可愛かった。
でも、そんな彼らの視界にレオノーレはいない。
そういう寂しさと嫉妬する自分への失望を、ルウェルに肌で慰めさせたことは何度かあったけれど。
「嫌よ。気分じゃない」
「あーらら……」
吐き捨てると、緩んだ笑みを浮かべたままのルウェルの目に昏いものが射し込む。
「じゃ、頑張ってクリスを説得するかな」
それも瞬き一つで消えて、ルウェルはまた大きなあくびをしつつ踵を返した。
「あんまりさ、思い通りにならないことばっかりに目を向けてるのはよくないと思うぜ」
振り向きもせずに言い残した彼の声の余韻と足音が遠ざかってから、レオノーレは呟いた。
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