
願いごと(7)
ユニカを抱きしめる腕の力を緩めると、少し身を離した彼女が気遣わしげに見つめてくる。
ディルクがユニカに会いに来た@摎Rを知ってもなお、ユニカはこうして見つめてくれるだろうか。ユニカを傷つけたくないと思っていることを信じてくれるだろうか。
むしろ、何もかも明かした方が、ユニカを守れるのではないか。
「ウゼロへ、」
ディルクは口を開きかけたが、続きは声にならなかった。
自分達の目的と、自分の想いと。この二つを天秤にかけることなど、やはり出来ない。天秤にかけてしまえば針がどちらに振れるかは決まっている。その結果を知りたくない。
だとしても、嘘もつきたくない。
だからディルクが発したのは、結局はひどく曖昧な言葉になった。
「ウゼロへ行く時は、決して俺から離れないと約束してくれ。あそこは俺の家族も友人もいる場所だけど……シヴィロほど平穏ではないから。ユニカが約束してくれるなら安心して連れて行ける」
ユニカは決して頷きたくないわけではなさそうだが、それでもすぐには首を振らず、ただ困ったように眉尻をさげた。
「でも、私と王太子殿下≠ェ一緒にいる理由はないわ」
それは確かにそうだ。ユニカはエルツェ公爵の娘として招待されただけだろうし、ディルクは恐らく国王の代理として、エイルリヒの大公位継承権を承認しに行く役目を帯びる。ユニカの籍が王家になくなった今、シヴィロ王国からの一団として共にウゼロ公国へ向かうことになったとしても、その先の待遇はまったく別になるはずだった。
ただし、ある場合を除いては。その方法をユニカは知らないだろうが、その方法を選ぶためには、ディルクにも覚悟が必要だった。
「約束してくれないなら、連れていけない」
「……っ!」
なおも頷こうとはしてくれないユニカの手にそっと口づけてから、その細い指先に甘く歯を立てる。戯れに噛んだだけなので痛くはないはずだが、彼女はディルクを振り払ってむっとしながら睨んできた。
しかしその表情はすぐに緩んで、呆れながらの微笑みに変わった。
「分かったわ。ディルクが手を引いて連れて行ってくれるところは、いつも嫌な場所じゃなかったもの」
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