願いごと(3)
「誰だ」
思いのほか鋭い声が飛んできたことに首を縮めながら、ユニカはおずおずと灯りの届くところまで進み出た。
「ユニカ……」
「部屋から灯りが点いているのが見えたから、誰がいるのかと思って……。あの、まだ起きているの?」
「目が冴えてて寝る気になれなくてね。レオ達を付き合わせようと思ったら、もう眠いって、さっき置いて行かれたところだよ」
あまり冴えている≠謔、には見えなかったが、ユニカはディルクの手招きに応じて彼が気だるげに腰掛けている長椅子に一緒に座った。
「演習のせいで、疲れている?」
「疲れるほどのことはしてこなかったつもりだけど、疲れて見えるかな」
「元気がないみたいだって、エリュゼが言っていたから。エリュゼもそう思ったなら私の思い違いではないでしょう?」
「元気がないように見えたから、心配してくれていると」
ディルクはそう言えばユニカがうろたえて赤くなるとでも思っていたのだろう。そんな思惑が透けて見える笑みを浮かべて額をすり寄せてきたので、ユニカは珍しく反撃してみることにした。
「いけない?」
「――いや、ユニカに気に掛けて貰えるならなんだって嬉しいけど」
内心どぎまぎしているのを悟られないように口許を引き締め、間近に迫ったディルクの目を強く見つめ返す。すると彼はユニカがやり返してきた≠アとに驚き、次の瞬間に緩んだ表情を隠すように顔を背けて離れていった。
そうだ、たまにはそうして動揺する側に回ってみたらいいのだ。
ユニカはささやかな反撃が効いたことに満足したのも束の間、すぐに眉を顰める。
やはり変だ。ディルクがこれくらいのことであっさり退くなんて。何重にもユニカをからかう術を用意しているのがディルクではないか――というのは少し言いすぎだろうか。
どうして元気がないのか答えをはぐらかされたような気もするが、もっと踏み込んで尋ねてもいいのか、ユニカは迷った。
ユニカの何もかもをディルクが聞いて受け止めてくれたのと、同じようにしてあげられたらいいのだけれど。いかんせん、人と話すのがまだまだ不慣れで、自分から相手の気持ちを聞き出すにはどうしたらいいのか分からないのがもどかしい。
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