願いごと(2)
「エリュゼにもそう見えたのね」
鏡の中にいるかつての侍女を覗いながら言うと、すました顔でこう返された。
「ユニカ様がじっと殿下を観察していらっしゃるのに、殿下はお気づきにならないのですもの」
どうやらユニカも観察されていたらしい。エリュゼに気づかれているということは、ほかの人達にも気づかれていたのだろうか。
考えると恥ずかしくなることは考えないことにし、夕食の前にも遡ってディルクの様子を思い出してみる。
特に変わったことはなかったと思うが……あるとしたら、エイルリヒからの手紙についてくらい。
ユニカの寝支度が終わると、眠気のあまりふらふらしだした妹を連れてエリュゼも引き上げていった。
明日は、晴れたら湖の城にディルクを連れて行ってあげる約束だ。そのための青空の気配を求め、ユニカは露台(バルコニー)へ出た。
雨は上がったが、そよいでくる風は冷たい。雲には切れ間があって、所々に白銀の星が見える。このまま雨雲がいなくなってくれればよいのだが。
部屋へ戻ろうとして、ふと視界の端に光を感じ足を止める。先ほどまで皆で集まっていた広間に、まだいくつか灯りがともっているように見えた。
誰か残っているのだろうか。
ユニカは踵を返し、エイルリヒからの手紙を手に広間へ向かった。
なんとなく、そこにいるのはディルクだと思ったから。
はたして、やはり広間にはディルクがいた。
皆で食べたり飲んだりして散らかした食器はすっかり片付けられていたが、窓辺に寄せた小さなテーブルの上にいくつかの杯と酒瓶が残っている。ほかにも誰か残っていたようだ。ディルクはそのテーブルの燭台の灯りを頼りに、ひとりぽつんと物思いに耽っているらしかった。
声を掛けようか迷っている内に、手を掛けていた扉がきぃっとかすかな音を立ててしまった。その音を聞きつけたディルクがようやく我に返る。
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