愛しさの代償(15)
「入れる。たっぷりがいい」
ユニカはまだ目を背けたままだったが、口許がほのかに笑んでいた。そしてスプーンに山盛りのジャムを注いだお茶の中に溶かし、カップを差し出してくる。
「あの、遅くなったけど、お帰りなさい」
「ただいま」
おもはゆそうに言われるとディルクも胸のあたりがむずむずした。ユニカの手を掴んで引き寄せたくなるが、少し我慢してまずは芳醇な酒と苺の甘酸っぱい香りを立ちのぼらせるお茶に口をつけた。
大きな果肉が舌の上で潰れるなんともいえない甘さで、冷えていた身体にしみるのが気分を落ち着けてくれる。昼食から時間も経っていたので素直に美味しく、一杯目をあっという間に飲んだ。
「ゼートレーネにいるのは、今月いっぱいかな」
「カイはそういうふうに手配してくれているわ。あなたはいいの? 都に戻るのが遅くなっても」
「五日くらいなら誤差の範囲内だよ。連絡しておけば大丈夫だ。ところで、湖の城にはいつ連れて行ってくれる? 領主様」
ディルクの問いに、二杯目のお茶を注ぐユニカの手が止まった。自分が書いた手紙の内容を思い出したのだろうか。こうして話すより、ずっと親密さが滲む文面でくれた手紙のことを。
「……お天気になったらよ」
「ちゃんと二人で」
「レオ達に気づかれずに行くのは難しいと思うわ」
「じゃあ何か理由を考えないとな」
「みんなで行ってもいいのではないの」
再び受け取ったカップをワゴンの上に戻しつつ、ディルクは首を横に振る。そうしてユニカの額に己の額をすり寄せた。十日ぶりにやっと触れたのがおでこだなんてらしくない臆病さだが、それで彼女が拒まないことを確かめてから、ようやくかすめる程度に唇を触れ合わせる。
「灯りを点けるわ」
が、口づけの続きを求める前に顔を逸らされてしまう。部屋が薄暗くなってきたのは確かなので、ディルクはくすりと笑っただけでユニカのしたいように任せた。
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