愛しさの代償(12)
結局ディルクのことを考えていると気づいてユニカが溜め息をつくと、すっかり昼寝の体勢に入っているように見えたレオノーレがむくりと起き上がった。
「だめ、退屈なのにじとじとして気分が悪いわ。ねぇアルフ、何か弾いてよ」
「ええー、お昼寝しようと思ってるのに……」
うとうとしていたアルフレートは、エリュゼにかけて貰った薄い膝掛けを頭まで被って隠れようとした。しかし、こうと決めたら曲げない公女殿下にソファから引きずり下ろされる。
「もの寂しさを癒やせるすてきな音楽を奏でてあげたら、きっと姉上からの覚えがめでたくなるわよ」
腕を掴まれ、レオノーレに向かって珍しく不機嫌さをあらわにしていた少年はその言葉にはっと目を瞠った。
「弾きます」
「いい子ね。そうだわ、カイのところに村の子がフィドルの練習に来てるんでしょう? 二人にも弾いて貰いましょうか。ね、ユニカ」
フィドルの二重奏にクラヴィアの伴奏付きとあってはなかなか豪華な演奏になってしまい、昼寝の子守歌代わりにはならない気がしたが……とにかく団欒の会場は音楽室へ移ることになり、ユニカはエリュゼと一緒に裁縫道具を抱えてレオノーレのあとをついていった。途中、書斎でフィドルの練習をしていた二人もレオノーレが捕まえて連行していく。
不満そうなカイと戸惑っているコーエンだったが、結局はやる気のあるアルフレートと三人でこそこそと曲目を相談して演奏を始めてくれた。
鬱陶しい雨音を退けるような明るい曲を選んでくれたのはレオノーレがそう要望したからだが、裁縫をしながら聴いているユニカの頬も自然と緩んだ。
どうやらユニカの溜め息を聞きつけたレオノーレが、気を紛らわせるために少年達を引っ張り出してくれたらしいと気づいたのは、彼女がその明るい曲調をものともせずに昼寝にふけり始めてからだった。
それからしばらくゼートレーネの空に晴れ間はなく、陽光の恩恵が足りない高地の村は太陽が傾き始めるとますます冷え込んだ。王太子の一行はそんな中森を駆け抜けてきた。村の教会堂で休憩させて貰ったのに、すっかり濡れ鼠である。
- 1118 -
[しおりをはさむ]