私は白竜とシュウのいた保健室を出て教室に向かった。ちょうど一時間目終了のチャイムが鳴って皆が移動を始めた頃、グランドから戻って来た私のクラスの皆を追い越して廊下をひた走る。

今まで抱き付かれた事はあったけどあんな事まではされた事がなかったから顔が熱い。熱くて、恥ずかしくて……


「おい」

『わっ!?』


人混みの中を通り抜けようとした刹那、何者かに腕を掴まれた。その反動で体は私の腕を掴んだ何者かの方へとバランスを崩してしまった。


『何……、あ』


その人が支えてくれていなかったら今頃私は廊下に尻餅をついていた所だろう。だけどだ、視線を後方へと向けた所で私は思わず体を緊張させてしまう。


『ア、ル…ファ…』


そう。私の腕を掴み、更には私の体を支えている人物、それがこの学園の生徒会長だったからだ。


『ななな何の用ですか』


アルファはこの学園一の秀才だ。文武両道を極めているという点では白竜やギリスも負けていないかもしれないけれど、彼ほど私情に流されない完璧主義者はいないのではないかと思うぐらいにしっかりしている。そんな生徒会長に声を掛けられたのだから緊張してしまうのも当たり前なわけで珍しく敬語を使ったのもただの反射に過ぎない。私は廊下を走っていた事を注意されるのかとアルファから一歩離れた。向き直って顔色を窺えばいつもと変わらない冷淡な瞳がこちらを見詰める。


「用というよりは」

『?』

「顔が赤いように見えたから熱でもあるのかと心配になっただけだ」

『……え?』


けれど気構える必要のなかったその理由に緊張が一気に解けて体の力が抜けてしまった。


「それと、廊下は走るな」


それから彼は付け足すようにそれだけ言って去っていってしまったけど、私は今もまだ拍子抜けしたまま廊下に立っていた。私は今日、お堅い生徒会長の意外な一面を知ったのだ。




「あの、すみません…」





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