行き先も知らないまま身体がふっと浮く感覚に襲われた私。だけどそれも一瞬の事。気付いたら初めて来た場所に立っていた。

あれ?ここって……ふと後ろを振り返ってみると、そこにはフェーダのメンバー。ギリスとメイアはいつも通り仲よくお茶をしていて、ヨッカとユウチは腕相撲、ロッコちゃんとピノ君は……何してるんだろうあれ。とにかく力を使ったり何なり、まるで家にいる時のように寛いでいる皆に開いた口が塞がらない。


「皆、なまえ連れて来たよ」


そんな私にお構いなしで皆に声を掛けるサル。すると私が場の状況を理解するよりも先に皆が一斉に喋り出す。


「あー!なまえやっと来た」

『え?』

「こんにちはなまえちゃん、一杯どう?」

「メイアの淹れた紅茶は格別だよ」

『いや、あの、』

「何してんだよそんなとこ突っ立ってないで早くこっち来いよ」

「隙あり!」

「あっ、ヨッカてめぇ汚ねぇぞ」

『ちょ…』


わっと賑やかになる屋上。そうだ、ここ、立ち入り禁止のはずの……とりあえず何で私が連れて来られたのか、もう一度皆の様子を見てみるとさっきと変わりなく騒いでいる皆の姿。だけど何かいつもと違う。いつもいるはずの人物がいないのだ。


『フェ、フェイは?』


決定的な違いと、自分がさっきまで何をしていたのかを思い出した私は皆の言葉を押し切ってサルに聞いてみた。

勝手に屋上に出た事。それが見付かったら生徒指導送りになるという事も十分重大だけど、私はフェイを探してたんだ。するとサルや皆が目を合わせて意味あり気に口元を歪ませる。


『何その顔……』

「ん?別に……あ、フェイ」

『え?』


サルが不意に私の後ろに視線を移したと思えばシュン、と聞き慣れない音がする。その音に振り返ってみればいつの間にかフェイが立っていた。


「あれ、なまえ?」


何でいるのとでも言いたそうなフェイにますます私が屋上に連れて来られた理由が分からなくなる。だけどとりあえず、


『フェイが私の事探してたって聞いたんだけど…』

「えっ?誰に……、あ」


そう聞けばフェイは一度ぽかんと口を開けてからすぐにその情報源が思い浮かんだらしく、サルを睨んだ。


「勝手に人の心の中覗かないでってば」

「やだなぁ、僕達は協力してあげただけだよ」

『……?』


フェイとサルの会話、私には理解出来ないけれどさっきからやたら皆の視線が私に集まっている事だけは分かる。本当に、何なんだろう。私はサルと睨めっこをしているフェイにふと視線を移してみた。頬が微かに色付いていてますます理解不能だ。そんな時、この雰囲気から逃げるようにフェイが私の腕を引いた。


『フェイ…?』


ちょっと来てと腕を引かれた先はサル達と少し離れた場所。屋上にある貯水タンクの影。私は首を傾げて焦ったように私を連れ出したフェイを見つめる。


「……なまえ、何て言われたの?」

『え?フェイが私の事探してたよって…』

「それだけ?」

『う、うん…』


そう言えばフェイがほっとため息をついたのが分かった。それからポケットに手を入れてごそごそと何かを探し始める。そんなフェイの様子をじっと見ていればやがてポケットから見慣れたキーホルダーが出てきた。


『それ…』


うさぎのマスコットが小さく揺れて首についている鈴が鳴る。私が朝どこかで落として来てしまったものだ。


「やっぱりなまえのだったんだ、廊下に落ちてたから」

『どうして分かったの?』


女の子なら誰でも付けてそうなキーホルダーなのに。フェイもエスパーなのかな?顔を覗き込むようにしてフェイに聞いてみれば急に言葉に困ったように目が泳ぎ始める。


「あー…えっと、」

『?』

「あの、実は僕……」


フェイが何か言いかけた時だった。


<<皆、戻るよ!>>


再びテレパシーで聞こえてきたサルの声にフェイと目を見合わせる。誰かに見付かったのだろうか、皆の方を見れば次々とテレポートを使って消えて行く。

どうしよう、私力使えないのに……


「僕達も急ごう」

『え?……わっ』


力の使えない私がさっきと同じ感覚に囚われる。息づく間もなくフェイに抱き締められたのだ。





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