今日は週に一度の音楽の授業。人前で歌ったり演奏したりするのが好きなわけじゃないけど私は毎週この時間を楽しみにしている。何故かというと、それは神童先輩と同じクラスだから。


「神童君、今日も伴奏頼めるかしら」
「はい」


音無先生が神童先輩に楽譜を渡せばそれに一度目を通した後でゆっくりとピアノの音色が響き出す。そう、私は神童先輩のピアノが好きなのだ。

繊細なタッチとすっと流れるようなメロディー。先生も含め、ここにいる皆は神童先輩の演奏が好きなはず。


「認識した、曲名、虹」
「ねこ踏んじゃった弾いてくださいよ〜」
「NO、これは授業だ」
「いっそこいつの独奏でいいんじゃねぇか?」
「く…ザナーク、僕の前に立つな」


好きな……はず。


「ちょっと皆、神童君には伴奏を頼んだの!」


並びなさいと指示を出す先生に素直に動いたのは私とアルファとレイだけ。さすがは生徒会会長とアンドロイドと言おうか。だけどザナークに至っては音楽じゃなくてもだけど相変わらずやる気無しだしベータやガンマなんて決まって同じ文句を漏らす。


「何で歌なんか歌わなくちゃいけないんですかぁ?」
「こんな昔じみた歌なんか僕には歌えないよ」
「あのなぁお前ら……」


そんな二人に神童先輩も呆れ顔だけど、彼らが仕方なくこのクラスにした事を知っている私にとってはどうしようもなく複雑な気分だ。

音楽には実際に歌ったり演奏したりする実践クラスとパソコンで楽曲を作ったりする創作クラスがある。私は神童先輩が実践クラスにするだろうと思ってこっちにしたわけだけど、彼らはそうでない。未来の技術を駆使している彼らには実践クラスの方が学べる事も多いだろうとトウドウ教頭が強制したのだ。だから不満があるのはしょうがないとも思ってしまうわけで。


「そうだなまえ、僕と購買行かない?」

『え?』

「おーいいぜ!俺も腹減ってきてたからなぁ、勿論ガンマの奢りだってよ」

『へ?』

「なっ、貴様を誘ったんじゃない!」

「あーあ、ガンマってば女の子誘うのも下手なんですね、ねぇなまえさん?」

『えぇ……?』


三人に挟まれてどうすればいいのかと先生を見れば苦笑いでお手上げ状態。そんな時、そんな私を助けるように再び神童先輩の伴奏が始まった。その伴奏に合わせて小さなハーモニーか生まれていく。アルファがテノールでレイがアルト。それから呆気に取られていた私に神童先輩が声を掛けてくれる。


「なまえ、ソプラノを歌ってくれないか?」

『は…はい!』


優しく微笑んだ神童先輩。私はその笑顔に誘われるように二人の隣に立ってソプラノパートを歌い始めた。三人の声が綺麗な三十唱を奏でる。そうすればほら、三人がしぶしぶとピアノの周りに集まってくる。


「しょうがない人達ですねぇ…」
「じゃあ僕がテノールやるから貴様はアルトをやれ」
「あぁ?どう考えても逆だろうが」


やっぱり、神童先輩ってすごいなぁ。




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