周りを見回してみたらまだペアを組んでいないのは貴志部先輩と和泉先輩と夜桜先輩の三人だけ。一年生は皆ペア組んじゃってるしこのクラスには女の子が私しかいない。ちょっと声掛けにくいけど私から誘うしかない。そう思い席を立とうとした瞬間、ふと目があった夜桜先輩がこっちに近付いて来た。


「なまえ、俺とペアね!」


私がまだ誰ともペアを組んでなかった事に気付いてくれたんだろうか、先輩のそんな一言のおかげで私は無事ペアを組む事が出来た……わけなんだけど、


『……あの、』

「ん、なにー?」


………何で私の事ずっと見てるんだろう。いや、似顔絵を描く側としてはちゃんと正面向いててくれた方が嬉しいんだけど、流石にここまで見られてると集中出来ないっていうか……


『ずっとこっち見ててくれなくても大丈夫ですよ?』


私は目の前で意向の読み取れない笑みを浮かべている夜桜先輩に言った。なるべく差し障りのない言葉を選んで、愛想よく。夜桜先輩は怒ると怖いって前に磯崎が言ってたからね。

だけど、これできっと先輩も目を逸らすだろうと思ったのに返って来たのは予想外の返事で。


「見てるんだよ、見たいから」

『……え?』

「だからぁ、俺がなまえの事見たいから見てるんだってば」


その言葉に思わず手が止まる。目を逸らそうと無理にスケッチブックの方へと集中させていた視線も先輩へと戻ってしまう。


「あはっ」

『………』


夜桜先輩はいつもそうだ。ふいに突拍子もない事を言って私の反応を楽しんでいる。どうも遊ばれてる気がしてならない私はいつになっても私から目を逸らそうとしてくれない先輩から逃げるように立てたスケッチブックの陰に隠れた。そうすればまた楽しそうに笑って何かを思い出したかのように「そういえばさ」と新しい話題を振ってくる。つまり私と目が合っていなくてもお構いなしって事か。


『……何ですか』

「なまえって何で俺の事名前で呼んでんの?」

『え?あ…』


確かに、言われてみれば先輩なのに下の名前で呼んでるのは夜桜先輩だけかもしれない。特に意識した事なんてなかったけど、気付いたらいつの間にか。

そう言えば「何それ」と吹き出した先輩。私もそんな先輩につられて自然と笑顔になった。


「そこ喋ってばかりしゃなくて手動かして」
「はーい」




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