周りを見てみればまだペアになっていないのは貴志部先輩か和泉先輩か夜桜先輩だけ。皆先輩という事もあって少し声は掛けづらいけど……勇気を出して貴志部先輩を誘ってみることにした。


『貴志部先輩、あの…私とペア組んでくれませんか?』

「俺?」








***









「──…へぇ、やっぱりなまえって絵上手いな」


貴志部先輩とペアを組んで似顔絵を描きだした私。輪郭と目を描いていった所で目の前に座っていたはずの貴志部先輩からそんな一言が飛んで来た。


『え?わっ!』


椅子から立ち上がって私のスケッチブックを覗いていたのだ。私は急に見られた事の恥ずかしさに思わず両手でスケッチブックを覆い隠した。そうすれば貴志部先輩は「隠さなくてもいいのに」なんてからかうように笑いながら椅子に座り直す。


『き、急に動かないでくださいよ』

「ごめんごめん」


そんな貴志部先輩を一瞥しては気合いを入れ直すように息を吐いて再び完成へと手を動かしていく。たまにまた先輩が覗こうとするから目で訴えて作業に没頭する。十分もかからなかったんじゃないか、出来上がった似顔絵を見て私は一人達成感に机に突っ伏した。

そこへ様子を窺いに皆の所を回っている照美先生が私の書いた似顔絵を驚いたように覗き込んでくる。


「わ、なまえちゃん上手いね」

『先生!』

「貴志部そっくり」


顎に手を当てて私の似顔絵の出来に感心している先生に少し照れてしまうけど、やっぱり褒められると嬉しい。ありがとうございますと一言お礼を言って貴志部先輩の方へ視線を戻せば、いつの間にか貴志部先輩がやる気満々で鉛筆を握っていた。そんな貴志部先輩に先生が他のペアの所へ行ったのを見計らって聞いてみる。


『あの…やっぱり先輩って、照美先生がいるからこのクラスにしたんですか?』

「え?」


前から気になっていた事。もしかしたらあの噂もただの噂かもしれないし、聞くなら今がチャンスかもしれないと思って。すると先輩は一瞬何かを考えるように間を置いてから口を開いた。


「まあ、それだけじゃないんだけど」

『……?』


そう言ってはにかんだような笑顔を向ける貴志部先輩。照美先生がいるから以外に理由なんて見当たらなかったけど深く追求はしないでおく。今は先生に褒めてもらう事で頭がいっぱいみたいだしね。






「あれ、貴志部……それ誰?」
「えっ?なまえですよ!」






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