『もう気にしなくて大丈夫だよ』


とそれだけ言えばもう一度「すまない」と言いながら目を逸らす白竜。本当に、フィールドではあんなに強引なプレーするのにね。

そんなこんなで氷嚢の氷も溶け始めてしまった頃、ガラリとドアの開く音がした。


「なまえ、こんな所にいたのか」

『沖田先生!』


ドアの方へ振り返ってみればそこには白衣姿の沖田先生が立っていた。両手に書類を抱えこちらに近付いてくる。


「探したぞ」

「……誰だ?」

『あれ?白竜知らないの?』


沖田先生は保健室の先生だ。体育ではたまに剣道を教えたりもしているけど主に白衣を着ている事が多い。なにせ授業の殆どがサッカーだからね。

それにしても、沖田先生を知らなかったなんて。


「いや、剣城と話した時に名前は聞いた事があったんだが…」


初めて見たと言いたげな顔でしげしげと先生を見る白竜。私はそんな白竜を横目に先生の方へと視線を移した。


『それで…どうかしたんですか?』


そうすれば先生は私に近寄って心配そうにおでこの腫れ具合を見る。


「生徒が怪我をしたと聞いて職員室で呑気に珈琲飲んでる先生なんていないだろ……白竜君、ついていてくれてありがとう」

「あ、いえ俺は…」


俺はボールを当てた本人だから、と言おうとしたのか途中で口ごもる白竜に先生が優しく笑いかける。いつもだったら初対面の人には突っかかっていくタイプなのに今はやけに大人しい。剣城は沖田先生の事を慕っていたから白竜にも色んな事を聞かせたのかもしれない。そんな事をぼんやりと考えていればふと視界いっぱいに先生の顔が移り込んできた。


「ここか?」

『お、沖田先せ…』

「だいぶ腫れは引いたみたいだな」


それから私の前髪を掻き分けて腫れがそう酷くない事に安堵のため息をつく先生。私はさっきまで冷やされていた其処に伝ってくる先生の手の温度に少しだけ顔が熱くなるのを感じた。


「これからは気をつけるんたぞ、なまえは女の子なんだから」

『はい……』


先生に優しくしてもらえるのも私が女の子、だからなのかもしれない。それでもちょっと嬉しくて、ちょっとだけだけど、この学園に入って良かったかなぁなんて。


「おいなまえ、戻るのか?」

『うん、白竜も戻ろう?』

「あ、あぁ」






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