「あの、すみません…」


ぼんやりと立っていればふと後ろから声を掛けられた。だけど振り返ってみても私に目線を合わせてる人はいなくてその声の持ち主が確認出来ない。


『……気のせいかな?』


これだけ大勢の生徒がいるのだ、聞き間違いかもしれない。私はそう思い再び教室の方へと足を進めた。


『………』


だけど確かに、誰かに呼ばれてるような気がする。でもおかしい事に毎回違う喋り方なのだ。「ねぇねぇ」だったり「みょうじさん」だったり、終いには聞き慣れた声で名前を呼ばれ、漸くその声の持ち主が大体誰であるか見当がついた。


『……サル、やめて』

「あ、ばれた?」


一度ため息をついてから窓の外を見ればサルがふわふわと宙に浮いているのが見えた。こんな事は日常茶飯事だから別に驚いたりはしないもののアルファに見つかったらまたえらい事になるんじゃないかとはらはらさせられる。というのも、サルやフェーダにいた皆が持っているのは校内で人助けの為以外に使う事を禁止されている特別な力だからだ。サルの様子を見た所移動が面倒臭くてテレポートを使った上たまたま廊下で見つけた私に悪戯をするためテレパシーを使った、というあたりだろう。


『懲りないね、また生徒指導されたいの?』

「大丈夫だよ、だってなまえは黙っててくれるだろ?」

『……』


見つかるよと注意したつもりが悪意のない笑顔で返されて思わず口ごもってしまう。まぁ確かに私はいつも黙認してるけど………


「おいサリュー・エヴァン!お前何度言ったら分かるんだ!」

「あ、アルファの犬」

「違う!私はアルファ様の手下だ」


たまたま通りかかったのだろう、手には大量のノートを抱えながら校則を破ったサルを見つけ大声を出す生徒会副会長のエイナム。ああほら、言わんこっちゃない。私は呆れた顔でエイナムと言い争いを始めるサルの横を通り過ぎようとした。けれどすぐに引き止められる。


「どっちでもいいよそんなの…って、なまえ待って!探してるんだ!」

『……探してる?』


──…聞けば、フェイが私を探しているそうだ。フェイが何故私の事を探してるのかに思い当たる節はないけれど……そんな用件らしい用件があったなら最初からそれだけ伝えてくれれば良かったのに。

私は、最後にそれだけ言ってエイナムに連行されていったサルの後ろ姿を見送った後教室に向かった。




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