「は…っ、ぁ…」

『……』


マネージャーとして選手の体調を管理する事は大事な役目であり、選手の苦しそうな声が聞こえて来たら瞬時に選手の安否を確認するのも当然の事だと思う。怪我でもしてしまったのならすぐに手当てをしなければならないし具合が悪いのなら休ませなければならない。ただ、どうしようもないままその場で戸惑っているのはここが男子トイレだからであって。


「…ん、」


ど……どうしたらいいんだろう。男子トイレに入って行くのも勇気がいるし……そんな事を考えながらもどうすべきかと男子トイレの前をうろうろしている時だった。


「名前…」

『っ』


かすかに漏れ出す吐息に混ざって聞こえてきた私の名前に思わずトイレの中へと視線が移った。

それからゆっくりと中を覗き込んでみれば目に映るのは一列に並んだ見慣れない形の便器と見慣れた人物だった。ぽっと上気した頬に声をかみ殺すように食いしばられた歯。さらには体がピクリと反応する度に水色の猫毛が一緒に揺れている。


『狩…屋……?』


何をしているのか、そういった事の知識が豊富でない私にでも分かってしまった。本当は今すぐにでも叫び声を上げたいところだけどそれよりも驚きの方が勝ってしまっているらしく、私はただ呆然とその光景を見つめる事しか出来なかった。どうして狩屋が私の名前を呼ぶのか、否、今も呼んでいるわけだけど……どうするべきか、二度目のクエスチョンだ。だけどそんなクエスチョンを問い質す事も出来ないまま私の目線はある場所に釘付けになってしまう。ああ、恐らく本人はまさか私が見ているなんて知らないだろうなぁなんて、罪悪感がこの場から離れるよう囁くがピチャピチャと耳を擽るような水音を立てながら手で扱いたり指で弄ってみたり、初めて目にした所謂"自慰"という行為にどうしても目が離せないでいた。


「ぅ…ん、ぁっ、名前…っ」


───…それから何分がたっただろうか。時計なんて持っていない私にはただ見ているだけのこの時間が短いようで長いような、そんな感じだった。呼吸も手の動きも格段と激しくなっている。そんな様子をじっと見ていれば急に狩屋の手が根本で止まった、と同時に掠れた声が聞こえてきた。


「くっ、…───っ!」

『!?』


びゅっ、と便器に向かって白いものが飛ぶ。今まで狩屋のソレを濡らしていたものとは全く違った白い液体。それはぴちゃりと便器の底へ落ちて私の視界からは一瞬で消えてしまったが視線を少し上へ戻せばまだ余韻に浸るように震えている狩屋の瞳と視線がぶつかった。


「おっ、お前…、!?」

『あ……』

「は?何して……は!?」


ああ、やっぱり狩屋は私がいるなんて知らなかったんだよね。あ、やめてよその顔、覗いてたんじゃないってば……いや、あながち間違いでもないんだけど、でも、私の名前呼んでたから……そうだよ、狩屋が呼んでたから。

私はとりあえずこの修羅場をどう乗り切ろうかと必死になって頭の中で言い訳を考えた。見られていた狩屋はもちろん恥ずかしいだろうし見てしまっていた私も恥ずかしいのだ。だけどそんな努力も虚しく狩屋の真っ赤な顔と鋭い視線が私に突き刺さった。


「……しね」





あぁ、ああ、嗚呼。
(ごめんね)
(その前にひとつ聞いておきたい事が、)





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真夜様へ。トイレで自慰を覗く……こんな感じでよろしかったでしょうか?私観ですが狩屋は恋愛に関して奥手だと思うので好きな子の知らない所で好きな子の事をいつも考えていたりしたら可愛いなぁと…。にしてもするなら個室でですよねけしからん(笑)では、リクエストありがとうございました!




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