それは練習が終わりマネージャーである私がボールかごを体育倉庫に運んでいる時の事だった。


『わっ!?』


見慣れた黄緑色がふと視界に移り込んで私は思わずバランスを崩しその場に座り込んでしまった。


「あはは、成功成功」

『……〜、フェイ!』


吃驚した?なんて言って笑うフェイをキッと睨めば満足そうに目尻を吊り上げた笑顔を浮かべた後私の目の前に手を差し出してくる。私はしぶしぶとその手に掴まって冷たい床にへたり込んでいたお尻を持ち上げた。それからジャージに付いてしまったであろう砂ぼこりを軽く払い再び視線をフェイのもとへ。


『それで……何か用?』

「うん、ちょっとね」


見た限り何か荷物を運んできてくれた訳ではないみたいだし一体何をしにきたのか、ボールかごを倉庫の奥まで押し込みながら問えば背を向けたフェイの方からガチャン、と重たい扉が閉まる音がした。


『何…、っ』


振り返ってみれば微かに動いて見える黒い影。それがすぐ目の前まで近付いて急に見えなくなったと思えばふわりとフェイの匂いに包まれる。それから耳元に吹きかけられる吐息に混じって囁かれる言葉に初めて自分がどんな状況にいるのかに気付いた。同時に心臓の鼓動も早くなっていく。まさかとは思うけどフェイってばこんな所で……


『はっ、離して』

「僕が何考えてるか分かったの?」

『……』


分かったも何も、やけに楽しそうなフェイの声を聞けばだいたいにして予想は出来てしまう。とりあえずこの密着度では逃げ場が無いことは確かだ。いつ人が入って来てもおかしくない倉庫で、しかももしいつもよくお喋りする葵ちゃん達に見られたら、もっと最悪なのはそういう事に免疫がなさそうな神童先輩に見られたら……私はどうにかしてそれだけは避けようと頭の中で必死にこの状況下における打開策を繰り広げた。だけど考えてみても叫ぶだとかフェイを突き飛ばすとかそんな単純なものしか思いつかない。もっと賢明な策なんてどれだけ頑張って考えてみてもうるさい心臓の音が邪魔してしまう。


「大人しくしててくれないと無理矢理襲っちゃうよ?」

『……っ』


今の時点でもう襲われてるに等しい気がするんだけどね、なんて、フェイのその言葉に口には出さないけど思わずジトリとした視線を送ってしまう。まぁきっと私がどんな表情をしてるのかまではまだこの暗闇では見えないだろうけど。それより私、どうすればいい?フェイの考えてる事が予想出来ているからといってストップをかける事も出来ないんだったらただされるがままだ……

そんな感情が渦巻いていた時、クス、と吐息に混ざった笑い声が耳元をかすめた。それから「なんてね」と呟かれた意味深長なひとことに何か言い返さなければと口を開けば柔らかい何かが私の唇を塞いだ。触れるだけ触れてすぐに離れていってしまったその感触に言葉も出ずに固まっていた私の耳元で再び笑い声が聞こえる。


「僕はただこうやって触れていたかっただけだったんだ」

『……え?』

「なのに名前ってば変な事考えてたよね?」

『あっ、』


悪戯を楽しむ子供のように軽快な笑い声。その声に皆はっと我に返ると同時に今まで暗闇しか映していなかった瞳が外の光を受け入れてそのまばゆさに思わず細まる。

それから「むっつり」と、唇が発音するひとこと。サイレントに伝わってくるフェイのその言葉にカッと顔が熱くなるのを感じながらも私は皆の所に戻って行くフェイの背中を追い掛けた。








ギリアに包まれた私達の青春
(それは甘酸っぱくて、)
(そして、気まぐれなもの)





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蒼空様へ。ちょっと意地悪なフェイ君可愛いですよね!上手く表現出来ていないかもしれませんがフェイ君は爽やかな意地悪さが似合うなぁと思いながら書いていました(^^)では、遅くなりましたがリクエストありがとうございました!


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