『いやああああ』
キッチンから聞こえる名前の声。
「どうしたの名前!」
『た…太陽…』
急いで駆けつけてみるとオーブンの前でへたりと座り込んでしまっている名前と目が合った。
『焦げちゃった…』
今にも泣き出してしまいそうな締まりのない顔と鼻につく焦げ臭い匂い。名前のその言葉を聞くより前に大体の状況は理解していたが、よくよく見てみるとどうすればこんな状態になるまで気付かずにいられたのかと不思議にさえ思う程の焦げ具合だった。
「…ケーキ?」
『ガトーショコラ…になるはずだったんだけど…』
「……なるほど」
今日はバレンタインだから僕の為に作りたかったんだと言われ素直に嬉しく思うがよく考えてみたら名前の料理の腕はそれはそれは壊滅的なものだ。この前も名前の家に遊びに来た時にシチューを作って貰ったが、何をどう間違ったのかシチューのはずが口に入れた瞬間全身が痺れるかと思うくらい酸っぱかったりした。作っている瞬間を見ていないから何とも言えないがめんどくさがりな名前の性格だ、計量や手順なんてものは関係なし、必要なし、なのだろう。
『もう一回作り直す』
「え?」
『だって太陽に美味しいって言って貰いたいもん』
「名前……ってうわあああ待って待って、何でチョコレートとバター混ぜてるの!?」
『だってケーキだもん』
………ああ、駄目だ。せっかく僕の為に作ってくれてるのにこんな事を言うのはどうかと思うけど名前はまず"順序"という言葉を覚えた方がいい。それからすぐ横に分かりやすく作り方が写真で載っている雑誌が置いてあるのにそれを見てないってどういう事だ。それなのに今度こそは成功すると自信満々な様子の名前に思わず溜め息をつけばそんな僕の心情を察してくれるはずもなく楽しそうに僕に満面の笑みを向けた。
『太陽はテレビでも見てゆっくり待っててよ』
「………」
分かった。その自信に免じてこれ以上口出しはしない。大人しく待つ事にするよ。だけど、これだけは言わせてね。
病院送りは御免蒙ります
(まさかぁ、それはないよ)
(ガトーショコラがすごく水っぽいんだけど何で!)
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ガトーショコラって意外に綺麗に焼くの難しいですよね。あと上に振るう粉砂糖を塩と間違えた方、受け取った方は吃驚ですよね(笑)
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