「最後の晩餐になるかもしれねェんだ、味わって食えよ」

置かれた料理はあからさまに今までより豪華で、なんだか最後の晩餐ってのが現実味を帯びた。
まあ豪華なのはいいことか。そう思って端から自分の胃袋におさめていけば、世話役が小さく笑って言う。

「この食いっぷりも、見納めかねえ?」

オッサンは厭味ったらしいが料理はおいしい。我慢だ、あたし。もくもくと食べ進めていると、世話役が立ち上がった。落ち着きのない奴だ。

「ちょいと、今日はこれで失礼するぜ」
「へ?」

思わず声を漏らすほど、あたしはビックリしたらしい。なんたってここに来てからずっと、あたしが起きてるときはだいたい部屋にいたし、皿も片付けずに出ていくなんて初めてである。
でも目を丸くしたのはほんの一瞬。口の中が料理でいっぱいだから目線に、ああそうですか、という意味をこめて見上げる。

「皿なら後で別のやつに取りに来させるさ。それじゃあな」

その一言の後、急に一人になった。なんか変な感じ。
……あ、この肉おいしい。

「(そういえば、他…って、誰だろ)」

そう考えてしばらく、どんな顔も思い浮かばない。ここに来てから、ずっとこの部屋の中だけの生活だった。そこで見たのはあの変人それでもあたしが熟睡してるとこを狙ってくる理由は、わかってる。

「……こわい、んだろーなあ」

う、うおっ、思わず独り言とか恥ずかしいわ、あたし。
でも、たぶん、そうなんだ。

いつの間にかお皿はからっぽになっていた。ごちそうさまでした、とここに来てまた習慣づけられた挨拶を一人でする。そして考える。この皿を取りに行くように頼まれる人について。
その人が、あたしと同じ血の流れる夜兎なら心配ない。だけど治療がそうじゃないことから考えて、この宇宙船にいる夜兎はそうそう多くもないはず。
なら、やっぱり……。

「……寝よっかな」

ぼすん、と布団に寝転がる。

どっちにしろ、目が覚めて少ししたらあの変人団長と戦うはめになるかもしれないんだ。世話役には強がってみたけど正直、あのバケモノじみた攻撃は、思い出すだけで体のあちこちが痛くなるほど。備えて早めに寝るのもいいかも。それに、皿もってく人も治療する人も、あたしがはやく寝た方がいいっしょ。

「……あ」

少しばかり覚悟して目を閉じてすぐ、あることを思いついた。
体を起こして手をのばし、床に散らばる要らなくなった書類とペンを拾いあげ、昔の記憶を引っ張りだす。ペンで文字を書くなんて久しぶりだ。

「……これで、よし」

上手とは言えないそれを見つめ、皿の脇に置く。
決戦前夜の割に、驚くほど穏やかな気分。あたしはいつの間にか寝ていた。
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