仕事を教えると言われた。食後、睡魔にさそわれるまま寝たあとのことである。

「……お前さん、聞いてんのか?」

当然のごとく聞いてなんかない。なんだってあたしが仕事なんかしなきゃいけないのさ。

「そりゃここで働くためだろ」
「………」
「タダ飯食わしてやるほど、こちとらお人よしじゃねーんだ」

食べてから言うなんて卑怯だ。そう思ったけれど口には出せなかった。ごはん、おいしかったし、少しくらいここにいるのも悪くないかもしれない。そう思った。

「おまえさんの仕事は、この紙のここ……ほらここな。ここにハンコ押してってくれ」
「………」
「なんだその拍子抜け、みてえなツラは」

なんで考えたことが筒抜けなんだか。眉間にシワを寄せる世話役から紙の束とハンコを奪いとって床に広げる。
ポン、ポン、ポン、ポン。調子よく音が鳴ってすこし楽しくなった。

色が薄くなってきたハンコにインクをつけなおしながら、ふと顔をあげるとすこし驚いたような表情を浮かべる世話役がいた。

「……なに」

睨んだところで何も言わないからそう尋ねると、世話役はさらに目を丸くした。
なんだっていうんだ。さらに睨めばハッとしたように肩をすくめる。

「いや、おまえさんずっと無表情だったからな」
「………」
「んな顔もできるんならよ、俺としてもそっちのが気楽でいいんだがね」

ちょい、と眉間を突かれた。

「シワなんざ寄せてっと、とれなくなっちま……って、いっえな!なにしやがる!」

調子に乗るな、と拳を突き出したら、見事にクリーンヒットした。ざまあみろ。ぼやく世話役を無視してまたハンコを押す作業に戻る。ポン、ポン、ポン、ポン。

「……こっちにもハンコ頼む」

ずい、と差し出された新しい紙の束にすこしだけうれしくなる自分に呆れた。

前に雇われてたとこと違って、ここでの「仕事」は結構たのしいかもしれない。


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