真っ暗で深いどこかに沈められたみたいに体が重い。ずっしり、どんより。でもそれに気がついたときには、すでに意識だけが上昇をはじめていた。

眠りからさめる独特な感覚の後、ゆっくりまぶたを開くと見慣れない天井。

(……ここ、どこ……っ!)

頭を動かそうとしたら頭のてっぺんから首まで激痛が走った。い……いたい……。思わず目に涙の膜が張った。
とりあえず微動だにせずに、きょろきょろと目玉だけ動かしていると寝ぼけた頭が回転をはじめ、そして気付いた。

「……あたし、なんで生きてんの」

走馬灯みたいに記憶が暴れ回る。あの砂埃と赤でできた世界を思い出したとき、おもわずそう口をついて出たのだ。

あたしは、死んだはずなのに。

それでも視界にうつる天井は、あたしが思い描いていたような死後の世界とは似ても似つかない。なにより、さっき感じた痛みが、すうはあと呼吸する音が、生きてる証拠。

首をひねると痛いので、ただただ頭をハテナでいっぱいにさせていたところに、低い声と爽やかな笑顔が降りかかってきた。

「なんで生きてるかって?覚えてないの?」
「……っ!」

天井をバックに、にっこり笑う若い男。……まったく知らない顔だった。だけどあたしはコイツを知ってる。正確には、この声を。

ついさっきまで、記憶の中で何回も再生されていた、声と同じなのだ。あたしを殺そうとしてた人と同じ、声。

なにも答えられずに、ただ心臓だけはバクバクうるさかった。どうしてコイツが。なんであたしは。

どうして、と、なんで、が交互に頭を支配して、混乱するあたしに男は続けた。

「もう二日も眠ってんだから死んじゃったかと思ったよ」

男はあくまで笑顔なのに、それがとてつもなく怖かった。背筋が凍るとはこのことだ。

「……ねえ」

え、と思ったときにはもう遅かった。

耳元でシュ、という音がして、黒目だけを動かして音がした右を見ると、既視感を覚える傘先。ああこの傘でこめかみブン殴られたんだっけ。

「俺はさ、完全にケガが治ったアンタがどんくらい強いか、楽しみになってここへ連れてきた、治療もさせた」
「な……んで……」

ようやく喉が機能して、いろんなことに対してなんでと聞く。なんで生かしたの。なんで、あたしが。

「いくら夜兎とはいえ……俺が、すでに満身創痍な奴を仕留めそこねるなんて」

苦笑じみた顔でつぶやいたと思ったらまたすぐにあの貼付けたような笑顔に戻った。理由なんてそれだけで十分でしょ。そい言う男はすごく満足そうだ。傘を持ち上げ肩を叩くように上下させている。だけれどあたしにはすべてが、全くもって理解不能なままだった。

「まあさっさとケガ治してよ。話はそれからだ」

言い捨てて男は視界から消え、すぐにまた現れた。今度はもう一人、男の髪を掴んで。

「わかんないことはコイツに聞けばいい」

今日からコイツがアンタの世話役だ。

そう言うのが聞こえた。なんだそれ。せわやく?

その男の言葉になにか言い返すような言葉が聞こえてきたけど、命に危険がないことを感じとったからか、突然眠くなった。そこに疲れも手伝って、あたしはまた深く沈むように意識を手放した。

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