「ハルー、これ頼まれてた資料ー」
「ありがとうございます」

本部で仕事をし始めてもう一週間になる。さすがに一週間もすれば科学班で過ごす上で不自由なことは無くなった。
人の名前もだいぶ覚えたし、誰がどの分野の専門かも覚えた……と、思う。ちなみに班長さんはリーバー班長。ぐるぐる眼鏡の人はジョニー先輩。帽子の人はタップ先輩。それから……って数えだしたらキリがないんだから、わたしもだいぶ馴染んできたって思っていいのかな、いいよね、うん。

「ハルー!こないだの実験の資料どこだ!?」
「いま持っていきます!」

本部はいい人たちばっかりだった。アジア支部を出るときは不安だったけれど、今は自分の環境がすごく恵まれてるなあと思う。いつだって死線ぎりぎりで数式やら化学式やらに追われているけれど、そんなのわたしだけじゃなくてみんなそうなんだ。つらいことを共有するってのは自然と人と人の絆を深めるらしい。

そんなことを考えながら、言われた資料をひっつかんで班長の机に向かう。

「班長、」
「お、サンキューな」

班長はペンを止めずにわたしが書き上げた資料に目を通してわたしに返す。それから、ちょんちょんと右手で机の隅を指差した。……これ、最初やられたときどういう意味か全然わかんなかったんだよなー。
今では慣れたその動作に、反射的に指差された位置へと書類を置く。同時にハンコを掴んだ班長の右手があがってポンっといい音がした。書類に赤い印。これは室長に出せって意味だな。ペンを走らせ続ける班長に、了解でーす、と小さく告げて室長の執務室に向かった。








「失礼しましたー」

室長が珍しく執務室にいた、奇跡だ。そしてなにごともなく資料を提出してハンコをもらった。おまけに世間話ついでにいろいろ褒められた。……な、なんだこれ、今日は槍でも降るんじゃないのか……!科学班の研究室に向かいながら思わず窓の外を確認してしまう。室長を探す手間がなかったのはうれしいけど、わたしが本部に来て室長がちゃんと執務室にいたのは初めてだ。さすがに毎日逃げられればこっちも慣れるってもんだよ。ロープは常備、これ基本。

まあバクちゃんに、「バクちゃん」っていう素敵な呼び名をつけただけあって、コムイ室長も尊敬できる人なんだなあとか感じながら研究室のドアを開いた。そのときだった。

パアアアン!という音の嵐。
ぽかんとしている間にわたしの体には色とりどりのカラーテープがふりかかってきた。
たぶん相当マヌケな顔であろうわたしに明るい声。

「歓迎会、まだだったもんな!」

ジョニー先輩が嬉しそうにそう言って笑っていた。その手にはクラッカー。歓迎会、という単語が耳から入って頭の中で揺れる。ようやく事態を理解したわたしは心臓がきゅーっとなって、目が熱くなった。

「あ、ありがとう、ございます…っ」

涙が零れないように必死になるわたしを見て、「ジョニーがハル泣かしたぞー」とタップ先輩が笑って騒ぎだしたのを皮切りに、室長も乱入して、しばらく科学班は大騒ぎだった。




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