本部に来て、初日から激務だった。挨拶もそこそこに、休んだらという先輩方の申し出を断ってこの新しい机に座ってもうだいぶ経つ。
アジア支部でも相当いそがしかったと思うけど、その比じゃないよ、これ。自分が限界だと思ってた境界線はもうとっくに越えてる。限界とは初めから存在するのではなく自分で設定してしまうものだ、という言葉を痛いくらい実感した。
っていうか実際痛いわ、頭と肩と手首と背中と腰が。

少しだけ仕事が片付いて、思わずため息をついた瞬間、背後に人の気配を感じて振り返ると声が降ってきた。

「初日から、きつかったか?」

コトンと音を立ててマグカップが置かれる。ありがとうございます、と座ったまま頭をさげる。んー、えーっと、この人は……ああ、あれだ、班長さん。名前は忘れたけど、この髪型には覚えがある。
名前が出てこないのは申し訳ないけど、わたしのせいだけじゃないはずだ。挨拶、一瞬だったし。

……あれ?これコーヒーじゃないのか。

マグカップの中身が薄黄色で、口をつけるとしゅわしゅわした。

「疲れたらこれだろ」

にっ、と笑う班長さんの顔はやつれていた。もし班長さんが今持ってるコップに入ってるのもレモンソーダなら、あまり炭酸に回復効果は期待すべきじゃない。少なくとも炭酸飲んだってやつれる実例がいらっしゃる、目の前に。

それでも喉を落ちる冷たさは頭をすっきりさせてくれた。あーこっちの上司はバクちゃんと違って優しい。

「さすがはバク支部長のお墨付きだなあ」

そんな班長さんはわたしの机の上にあった書類をおもむろに拾いあげて目を通すとそうつぶやいた。
そんな風に褒められたらどう返せばいいかわからん…!とりあえず目が泳いだ。でも黙ったままでも感じ悪いぞ、わたし。とか思ってたらいきなり顔をのぞきこまれて、反射的に首から上が後ずさった。なな、なんだ!

「……んー、すげー疲れた顔してんな。初日から働かせすぎたか…仮眠とってきていいぞ」

おもいがけない優しい声と言葉に頷きそうになった。でも心の中で自分の頬をたたく。いかんいかん、優しい上司に甘えたらダメだ。

わたしは約束したんだから。わたしの家族、アジア支部のみんなと。

「ありがとうございます……でも、頑張るって決めたんです」

できるかぎり疲れた空気を消してそう言うと、班長さんは少し目を丸くした後で声をあげて笑った。

「そうか!じゃあこれ追加な!」

どざさあっと、どこから出したのか班長さんが机に置いた書類を見て、数秒前の発言をした自分と、この人を優しいと形容した自分を殴りたくなった。

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