きっと、泣いているんだろう。電話の向こうから聞こえてくる震えた声を聞きながら、僕は今日のことを振り返っていた。



放課後、実紅とラビに誘われてゲーセンに行くことになった。最近二人は格闘ゲームにはまってるらしい。その割にラビも実紅も僕より弱い。だから特訓だと二人で何回も白熱した、だけど低レベルな戦いを繰り広げていたら突然実紅が奇声を発した。

「ど、どうしたんさ実紅」
「や、やば、やばい!門限過ぎてる!」
「…あ、そういえば…」
「うああ、リーバーからめっちゃ着信来てる!」

送ります、という僕の声はどうやら届かなかったらしい。ありえない勢いでゲーセンを出てった実紅の背中を見送っていたらラビがため息をついた。

「相変わらず、心配性さね」
「それだけ実紅が大事なんでしょう、リーバー先生は」
「…先生じゃなくて、アレンのことさ」
「…アホなこと言ってないで、僕らも帰りますよ」



そんな風にラビをあしらったくせに家に帰ったらやっぱり心配になって電話してみたらこれだ。


実紅が先生のことを好きだと気付いたのは中3の夏だった。それはほんの少しの変化で。先生といる時の実紅が、いつもより少しだけ楽しそうで、少しだけ…女の子らしかったから。

高校受験を目前にして、不安げだった実紅を励ますことができたのも先生だけだったでしょう。そこでようやく諦めがつきました。僕の入り込む余地は無いんだと、そう思ってしまったんです。


大丈夫です、あなたなら。
先生が心配してくれてることを理解できてるなら。大丈夫、です。

「実紅、」
『うん?』
「もう電話は切ります」
『…へ?』
「先生から、着信入ってるんじゃありませんか」
『…あ、』
「たぶん、電話繋がらなくて心配してるでしょうから」

返事も聞かずに電話を切った。





title:おやすみパンチ





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