宇宙船が、停電した。 「ッあああああ!なに!なんで真っ暗!?わけがわからんよ阿伏兎ぉおお!」 「ぐ!…え…く、首…しめ…」 「ムリムリめっちゃ暗いムリだってこんなん!」 「そ、ろそろ…っ、離し…」 「いやあああ死ぬ死ぬ暗い暗い!」 「俺、が……死…ぬ…」 暗くてなんッも見えない。ていうか停電ってなんだよ!なんで宇宙船で停電とか!ありえん怖い!ただ一つの救いは部屋に一人じゃなかったことだ。これで一人だったらあたしパニック死してたかも。ありがとう阿伏兎、たまには役に立つじゃないか。 と、そういえば阿伏兎、さっきから黙ったま、ま…… 「って、ああああ!ごめ、ごめん阿伏兎!!」 「ぐ……川が、見えた……」 なんだか随分長いこと首を締めてたらしい。ごめんね。 パッと手を離すとガクンと膝をついたのが気配で分かった。またまた申し訳ない。それにしても… 「ままままだ直らないとか…!」 ありえないよね!とんだサボリだよ!復旧はやくして…!泣くよ!?あたし泣くよ!? 「って、もう泣いてンじゃねえか」 「う、っ、ぎゃああああッ!なに!?いっ、いきなり触んないで喋らないで心の中読まないでッ!!」 くい、とほっぺたを拭われる感覚に思わず体が跳びはねた。ものの例えとかでなく、実際3センチくらい浮いたと思う。 「ったく、宇宙最強が聞いて呆れるなァ…」 「るっさいバーカ!」 苦し紛れの大声に、はあ、という大きなため息が返ってきた。ちくしょう明るくなったら覚えとけよバカ阿伏兎。 「まだ直らないのかねえ」 「本当だよ」 「ちっと様子でも見に……?」 ――あ。 阿伏兎の戸惑ったような反応で気付いた。あたしが、思わず阿伏兎の服を引っつかんでいたことに。 「あああああばば!違う違う!ごめん!うん!見てきてはやく復旧させてきて!」 一生の不覚だよあたし!いくらここに一人が嫌だからって…! ほら早く行けと両手でぐいぐい押す。 「……やっぱりやめだ」 「へ…い、いや!はやく行って直してきてよ!」 びくともしないけど真っ暗な中、出口がありそうな方向に更に力をこめて押す。すると必死なあたしを鼻で笑うような声が頭上から降ってきた。 「な、なに笑って」 「泣くほど怖ェなら素直に行くなって言えばいいのによォ」 プツンと思考がストップする音が聞こえそうだった。 「な、なな、なに言って」 「わーわー騒ぐ元気があんなら大丈夫かと思ったんだが…」 「わ…っ!?」 思わず声をあげたのは、あたしの手が、ふいにぎゅっと握られたからだ。 なんでわかるんだよこんな真っ暗な中…手がある場所とかさあ…エスパーかなんかかこのオッサン。 笑い声に、見えないけど反射的に顔をあげる。 「ほらよ、素直になってみやがれ」 …たしかに真っ暗で見えない。けど、いま、この目の前の男がどんだけ憎たらしい顔をしてるか、なぜか鮮明に頭に思い描かれた。 「……阿伏兎がいてくれるんならまだ真っ暗でいい」 「な……!」 「……なんとか言えよバーカ」 「いや……おまえさん、ごく稀にだけどよ、不意打ちでかわいらしいこと言うよなァ」 「ご、ごく稀ってなんだ…!うあー!もう!明るくなったら覚えとけ!」 スリルはいらない! title:おやすみパンチ 七万打企画:凛さま(怖がりヒロイン) こ、こわがり…?って感じのヒロインになってしまって本当に申し訳ないです…!しかしわたしは楽しかった!素敵なリクエストありがとうございました! |