実紅が学校をやすんだ。メールしたって電話したって、なんの返事もないもんだから、そりゃ俺様だって心配するわけ。

「ごべん」
「まあ、熱で寝てたってだけでよかったけどね」

ベッドに横たわる実紅の声はガラッガラなうえ鼻声。相当タチの悪い風邪にやられたらしい。鼻から下を覆うマスクが、なんだか息苦しそうだ。

「うづるがら、ざすげは、がえれ」
「なに言ってんの、起き上がれないくらいしんどいくせに」

もう3分おきくらいに帰れって言われるけど、こんな状態で放っておけるほど俺様は薄情じゃない。
むしろ実紅が好きだっていうタマゴのおかゆ作って、あっつい額に冷えピタ貼って、林檎まで剥いちゃってる。こんなかいがいしくお世話してるんだから一途もいいとこ。
あ、実紅が食い終わったおかゆの皿も片付けなきゃ。

「こんだけ食べたらすぐ治るでしょ。あとはよく寝ること」

片手で布団をかけ直す俺の手に、実紅の熱い手が触れた。

「ざずけ」
「どうしたの」
「……ほれなおじだ」

ぜえぜえというノイズを入れて発せられた言葉と、離してくれそうにない熱のこもった手は、俺をそこから動けなくさせるのには十分すぎた。
顔の筋肉がゆるむのを抑えきれずに、手を繋いだままベッドの脇に座りこむ。

「さみしーの?」

風邪をひくと寂しくなるって言うよね。と続けると、ぶんぶんと勢いよく首を横に振られた。

「ざすげ、と、いっじょがいい」
「!……嬉しいこと、言ってくれるじゃないの」

その、いつもよりすこしだけ素直な口が睡魔に負けて、可愛い寝顔を拝めたら、皿洗いして家に帰るとしますか。


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